■人間関係のわずらわしさと温かさ
「韓国は人間関係が濃いですね」
1980年代から1990年代に初めて我が国を訪れた日本人からよく聞いた言葉だ。
しかし、この十数年は韓国の都市部、とくにソウルは人間関係がかなり淡白になってきたと思う。たとえば、食事や酒をおごってもらったとしてもそれを負担に感じる人が増えた。また、日本のように店で一人メシや一人酒をしても変な目で見られなくなってきた。そして、女と見れば、「独身ですか? 結婚まだですか? なぜ結婚しなかったんですか?」などと聞いてくる人が少なくなった。
わずらわしい人間関係から解放されるのは気楽だが、どこかさみしくもある。Netflixで配信中の韓国ドラマ『私たちのブルース』は、多くの都市生活者が感じているそんなさびしさを癒してくれるドラマである。
「隣の家の下着の数から箸が何膳あるかまで知っている」
「誰もが私を知っているこの街から逃げ出したい。(市場での顔見知りへの)あいさつだけで首がもげそう。うんざりする……」
劇中、こんなセリフが何度か出てきた。『私たちのブルース』はあたたかい人情と背中合わせの人間関係のわずらわしさを描くドラマでもある。