■『JSA』パク・チャヌク監督(2000年)

 前年のユ・オソン主演映画『SPYリー・チョルジン 北朝鮮から来た男』とともに、北側の兵士や工作員を血の通った人間として描いた画期的な作品だ。

 南北分断を描いた映画では同じ空間に居る南側と北側の人間が心を通わせるきっかけとして食べ物がよく使われる。いわば緊張→弛緩の役割である。

実際の板門店の写真。『JSA』の板門店のシーンは京畿道の南楊州のセット場で撮影された
板門店にある本物の「帰らざる橋」。手前左手が南側の歩哨小屋。北側の歩哨小屋はこの橋の向こうにあるという設定だった

 しかし、『JSA』では逆に弛緩→緊張の場面で食べ物が使われたことで映画が引き締まった。北側の歩哨小屋で南北の兵士が兄弟のように楽しく過ごす。南のチョコパイを旨い旨いとほおばる北側兵士(ソン・ガンホ)に南側の兵士(イ・ビョンホン)がうっかり、

「南に来れば腹いっぱい食えるよ」

 と言ってしまう。北側兵士はチョコパイを吐き出して真顔で返す。

「オレの夢はな、いつか我が共和国が南朝鮮より旨い菓子を作ることだ。その日までこのチョコパイで我慢する」

「………わかったよ。まったく口の減らないおやじだ」

 そう南側兵士が言うと、歩哨小屋は再び和やかな雰囲気に。

 弛緩→緊張→弛緩。ソン・ガンホの上手さが際立った、この映画前半のハイライトシーンである。

筆者が2000年に『JSA』を観た釜山南浦洞の釜山劇場(現在のPIFF広場)。当時は映画館の前でイカ焼きが売られていて、館内にはイカの匂いが漂っていた