■キム・ゴウンの映画デビュー作『ウンギョ 青い蜜』(チョン・ジウ監督、2012年)
1970~1980年代、欧米で乱発された “初体験もの” のような邦題が敬遠されるのか、『ウンギョ 青い蜜』は今をときめくキム・ゴウンのデビュー作であるにもかかわらず、あまり話題にのぼらない作品だ(原題は『은교(ウンギョ)』)。
物語は山荘に住む70歳の高名な詩人(パク・ヘイル)と彼を慕う弟子(キム・ムヨル)、その二人の間に割り込むかたちになる女子高校生(キム・ゴウン)の3人によって展開される。
キム・ゴウンという女優の魅力は、いろいろな意味で “少し足りない” ところなのだが、この映画は女子高校生に割り込まれた男2人がそれぞれ自らに足りないものを渇望するあまり苦悩する。詩人に足りないのは若さ。弟子に足りないのは才能だ。
2人の苦悩の狭間でキム・ゴウン扮する女子高校生だけが屈託がない。しかし、男たちを惑わす色香がある。物語が進んでいくうちに彼女にも影の部分があることがわかる。その三角関係の描写が生々しく、好き嫌いが分かれそうだ。
それもそのはず、チョン・ジウ監督は1999年の映画『ハッピー・エンド』で、夫役のチェ・ミンシク、妻役のチョン・ドヨン、間男役のチュ・ジンモによるドロドロの愛憎劇を描いた人だった。あの映画を受け入れられた人は本作も楽しめるだろう。
筆者もいい年齢なので、老いることの残酷さ、嫉妬の苦しみなどは人並みにわかるつもりだが、なかなか消化しづらい作品である。ここはあまり考え過ぎず、危うく、脆く、はかない二十歳のキム・ゴウンの美しさを愛でることに耽るとしよう。