■『八月のクリスマス』主人公ハン・ソッキュとの名シーン

 とくに日本にファンが多く、山崎まさよし主演で日本でもリメイクされた名作『八月のクリスマス』(1998年、ホ・ジノ監督)。オ・ジヘは本作でもハン・ソッキュ扮するジョンウォンの妹ジョンスクを演じた。

『八月のクリスマス』が撮影された全羅北道群山の写真館セットは現在、同作の小道具の展示場になっている

 体調の悪い兄を気づかい実家を訪れたジョンスクとジョンウォンがスイカを食べている。他愛もない話をしながらスイカの種を同時に庭に飛ばす。ジョンスクは肩を震わせて笑うが、その表情はすぐに泣き顔に変わる。兄の今後を心配しているのだ。それに気づかないふりをするジョンウォン。

 それまでの韓国映画にはあまり見られなかった繊細な感情表現が、日本の人に受けた理由だろう。ジョンウォンとタリム(シム・ウナ)のストーリーに目が向きがちだが、本作前半の白眉はハン・ソッキュとオ・ジヘによるこのシーンだと筆者は思う。

群山の写真館セットの内部に飾られた場面写真。写真下左手のパネルは、オ・ジヘ扮するジョンスクが兄(ハン・ソッキュ)を見舞うシーン。ちなみに日本版『8月のクリスマス』では、西田尚美が妹を演じた

 オ・ジヘはじつは父も母も俳優で、祖父は1930年代から60年代にかけて活躍した映画監督というサラブレッドだ。ソル・ギョングファン・ジョンミンキム・ユンソクイ・ジョンウンなど数多くの名優を輩出したミュージカル『地下鉄1号線』の初期メンバーでもある。グラデーションを感じさせる役柄を繊細に演じる彼女に、今後も注目していきたい。