1980年代を舞台とした我が国の映画やドラマは、軍事独裁政権、民主化運動、貧困などをテーマにしたものが多かったが、ユ・アイン主演のNetflix映画『ソウル・バイブス』は88オリンピック(1988年ソウル五輪)を控え、ちょっと浮かれたソウルの空気の中で夢を実現しようとする若者たちを描いていて新鮮に感じた。
公開前から楽しみだったのは、1988年という時代がどう再現されているかだった。今回は映画前半に出てくるそんな場面を取り上げてみよう。
■韓国人がなぜサウジに?
サウジアラビアから帰国した主人公ドンウク(ユ・アイン)を金浦空港で迎えた旧友ボンナム(イ・ギュヒョン)の黄色いシャツを見て、あっと思った人もいるだろう。当時のソウルのタクシー運転手のユニホームである。
同じ黄色いシャツを着ていたのが1980年のソウルと光州を舞台とした映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年)のマンソブ(ソン・ガンホ)だ。デモによる交通規制にわずらわされた彼が、「学生のくせに勉強しないでデモばかりやってる奴は、みんなサウジに行かせて苦労させればいい」と言う場面があったが、まさにその時代である。
なぜ韓国人がサウジに? と思うかもしれないが、経済成長途上の70~80年代は、建設現場経験者や体力に自信がある者はサウジアラビアやイランなどの中東諸国に数年単位の出稼ぎに行っていたのだ。『タクシー運転手 約束は海を越えて』のマンソプもサウジで稼いで帰国し、ソウルで個人タクシーを開業したのだろう。もっとも、『ソウル・バイブス』のドンウクはサウジで苦労というよりも悪いことばかりしていたようだが。