■海苔巻きは「愛情」「円満」「幸福」を象徴する完全食
今年のベストドラマとの呼び声も高い『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』では、クジラとともに海苔巻き(キンパ)が主人公ヨンウ(パク・ウンビン)に心の安らぎをもたらすアイテムとして使われていた。
ヨンウの一日は、父親が一人で切り盛りする食堂で海苔巻きを食べることから始まる。この店は海苔巻きが好きな娘のために開業したようなものだ。海苔巻きは愛情の結晶である。
海苔巻きの具は、肉、魚介、野菜、乳製品、卵など多彩。タンパク質、繊維質、カルシウムなど栄養バランスも申し分ない。具や味付けはいかようにもアレンジできる。
ヨンウが食べる海苔巻きは彼女のために断面図が見えるよう皿に盛られる。ごはんやカニカマの白、ニンジンの赤、タクワンの黄、ホウレンソウの緑、ゴボウやおでんの茶、海苔の黒。朝鮮半島では食の理想といわれる「五味五色」が満たされている。
「愛情」「栄養」「美味しさ」「美しさ」の両立。全州ビビンパや宮廷料理の九節板もこの条件を満たしているが、海苔巻きには気取りがない。庶民の味方だ。こんな食べ物、他にあるだろうか。
海苔巻きは完全食。その思いを強くしたのは、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』に続いて『ナルコの神』を観たからだ。ネタバレになるので詳述は避けるが、次のようなシーンを想像してみてほしい。
軽食屋のまな板の上で手際よく切り分けられる海苔巻き。ゴマ油で湿った海苔がつややかだ。海苔巻きを頬張りながら宿題をする子供たち。店の名前は『エデン粉食』。エデンはもちろん理想郷を意味するエデンの園からだろう。
私たち韓国人にとっては身近過ぎる食べ物で、これまで特別な意味など感じなかったが、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』と『ナルコの神』は、海苔巻きに「愛情」「円満」「幸福」の象徴という新たな称号を授けたようだ。