■悪役ユ・アイン相手に大きなカタルシスが得られる『ベテラン』
本作のあとからトラウマ級の悪役が続くので、好漢ファン・ジョンミンを堪能したい人におすすめなのが、『ベテラン』(2014年/リュ・スンワン監督)だ。
傲慢な薬中ビジネスマン役のユ・アイン、狡猾な参謀役のユ・ヘジン、ラスボス役のソン・ヨンチャンなど、アクの強い敵役に囲まれるも、愚直に正義を貫く刑事に扮したファン・ジョンミンがひたすら愛おしい。
個人的に気に入っているのは、ファン・ジョンミンの妻に扮したチン・ギョン(『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のテ・スミ役)が職場に現れ、「あんたの捜査対象から買収されかけたの。正直心が揺らいだわ!」と詰め寄るシーン。このときのファン・ジョンミンの困惑の表情は見ものである。
■問答無用のオーラを放った『哭声/コクソン』
日本の國村準との共演で話題となった『哭声/コクソン』(2015年/ ナ・ホンジン監督)。ファン・ジョンミン扮するのは、怪し過ぎるムーダン(巫俗人)。
この頃になると、彼はそこにいるだけで映画が成立してしまうようなオーラを放っていた。本作で確立された表裏のあるキャラは、宗教家と麻薬王を奇妙に両立させる『ナルコの神』の役に結実することになる。
■恐怖のクライムサスペンス『アシュラ』
『新しき世界』とともに、トラウマ演技が今も夢に出てきそうになるのが、ファン・ジョンミンが悪徳市長を演じた『アシュラ』(2016年/キム・ソンス監督)だ。殺戮に次ぐ殺戮。こういう映画でカタルシスを得る人には、できればなりたくないものだ。
ワイシャツ姿でズボンを下ろしたままの後ろ姿の不潔感は、忘れようにも忘れられない。韓国ノワールのベスト(ワースト?)5は? と問われたら、本作を挙げざるをえないだろう。
■静の恐怖がしみる『工作 黒金星と呼ばれた男』
『アシュラ』が動の恐怖映画なら、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』(2018年)は静の恐怖映画といえるだろう。人間臭いノワールの傑作『悪いやつら』や『ナルコの神』のユン・ジョンビン監督の作品だから、おもしろいに決まっている。
対北朝鮮工作員役のファン・ジョンミンは、本作での抑制の効いた演技で新境地を開拓したといえるだろう。
ここ数年は悪役や複雑な役を演じることの多かったファン・ジョンミンだが、たまにはハラハラしないで済むキャラが観たいものだ。そのときはぜひ、年相応の枯れ味を添えて。