●クライムサスペンス『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』(全12話)

 『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』は、南北統一目前の朝鮮半島で、韓国と北朝鮮出身のならず者9人が現金4兆ウォン強奪を企てるストーリー。このドラマのすごいところはその状況設定だ。かつてのJSA(板門店を中心とした南北共同警備区域)がJEA(南北共同経済区域)に変わり、南北の一般人が往来する。平壌に住む若い女性(チョン・ジョンソ)もその一人。彼女が韓国にやってくるいきさつを説明する第1話の冒頭6分は大変見応えがある。

 チョン・ジョンソがBTSを踊っている場所がソウルではなく平壌の金日成広場だったこと。彼女が列車でソウルへ向かう途中、窓外にJEAの発展ぶりを見て興奮した北朝鮮の乗客が、「たくさん稼いで故郷に大きな家を建てたい」などと話す様子。統一コリアンドリームを夢見て来た彼女がソウルで詐欺に遭い、中華料理店で働くリアリティ……。

 まずは第1話の冒頭6分を見てほしい。歴史に「もしも」はつきものだが、このシーンは、チャン・ドンゴン主演映画『ロストメモリーズ』冒頭の「日本がアメリカとの戦争に勝ち、植民地支配が続いている2009年の京城(ソウル)」の描写に匹敵するほど刺激的だ。

最終話に登場した鳳東駅は韓国人が行ける北限、都羅山駅(写真)から二駅先、この線路を10キロほど行ったところにある

●ヒューマン群像劇『私たちのブルース』(全16話)

『私たちのブルース』は、済州で鮮魚店を営む女性(イ・ジョンウン)や行商人(イ・ビョンホン)をはじめとする島の人々の物語。最近は我が国でも都市部では個人主義が発達し、たがいに干渉しなくなっているが、このドラマの登場人物たちはソウルから遠く離れた島の住人ということもあり、昔ながらの濃密な人間関係が健在だ。

 主な登場人物は商人や職人、海女など。彼らは情報や金を右から左に動かして金を稼いだりしない。体力と知恵を使って地に足を着けて暮らしている。そこに島外からわけありの人々がやってきて一悶着起きる。その描写はきわめて人間臭い。いまどきのキラキラ韓国ドラマとはひと味もふた味も違う。

 苛烈なスペック戦争(家柄、コネ、学歴、語学力、投資熱、外見など)に疲れている人々に癒しを与え、「本当の幸せとは何か?」を問いかけるドラマである。

済州島の南側にある西帰浦の毎日市場

*チョン・ウンスク来日トークイベントのお知らせ

 本コラムの筆者チョン・ウンスクが3年ぶりに来日! 2023年1月7日(土)に名古屋の栄中日文化センターでトークイベントを行います。

 1部 15:30~17:00 講座「ソウルの変化」(消えたもの、生まれたもの。新業態、新製品など)
 2部 17:30~19:00 情報交換会(日本のみなさんの韓国ロスの癒し方や、久しぶりに訪韓した人の目に映った韓国の姿などを聞きます。また、講師が半年がかりで取り組んできた新たな仕事についても話します)

 詳細とお申し込みは下記(栄中日文化センター)へ。
 https://www.chunichi-culture.com/programs/program_166125.html