ディレクターズカット版の作品性を特に高めているのは、音楽の使い方のように思う。本作は、『私の解放日誌』や『愛と、利と』に通じるような、やりきれない想いを抱く女性の生き様が時代を追って切々と描かれていく。
何をやっても報われない人生、学歴とコネばかりで動く社会……。ディレクターズカット版は、その背景に、キラキラ星のメロディーが何度も繰り返しかかる。キラキラ光っているようで物悲しい旋律が、まるでいつまでも続く暗雲のようだ。
こう書いていくと、社会派ヒューマン的なドラマのようだが、本作はサスペンスとしてもとても楽しめる一作である。物語は、ヒロインのユミの幼い頃から始まる。地方都市に生まれるが、ある事件をきっかけにソウルに1人で越すことになった高校生のユミは、大学に合格したと両親にウソをついたことをきっかけに、次々とウソをつくようになる。
「そこまでウソついちゃっていいの?」「もうバレてしまったのでは?」と、思わずヒヤヒヤさせる大胆なウソをつくユミ。やがて、雇用主の娘アンナの名や肩書まで盗み、泥沼にハマっていく。
ディレクターズカット版では、そんなヒリヒリとスリリングな展開の中でも、キラキラ星のメロディーや、登場人物の感情にそぐわない音楽が使われる。そのことが、ありきたりではない上質なイメージを生み出すとともに、視聴者の集中力を高める効果にもなっている。OSTでの誤魔化しがないゆえ、凝視しなければドラマについていけないのだ。
百想芸術大賞で最優秀演技賞(女性)にノミネートされたアンナ役のペ・スジの演技も冴え渡っている。
特に印象に残っているシーンがある。律儀で真面目な先輩ジウォンの家をアンナ(ユミ)が訪れたときのシーン。アンナは、地味な暮らしぶりが一目でわかる部屋を、蔑んだような羨んだような目で見回す。その表情が絶品だ。アンナの立ち位置が透けて見える。
自分はこれほど優秀で美しいのに、本来行けるはずの場所に辿り着けないのはなぜなのか。物語はその後、アンナ以外の人々のウソにも迫っていく。