――ギウは精神疾患を患っていて、一歩間違えたら誤解を受けるような役だったと思います。そういった難役を演じるにあたって不安を感じることはありましたか?

 おっしゃる通り、とても演じるのが難しいキャラクターでした。上手く演じられなかったら演技力がどうこう言われるだろうとも思いました。それで、とても心配したし、実際プレッシャーも大きかったです。ただ、それ以上に、演じてみたいと強く思わせるような力を脚本から感じました。

――精神科医にアドバイスをもらったそうですが、具体的にどんな話を聞き、その上でどのような点に気遣ったのですか?

 キャラクターの分析するうえで、まずは医学的なアプローチとして専門家の話を聞くことが大事だと思ったんです。ただ、いわゆる精神疾患といっても一人ひとり全然ケースが違うので、一概にこうだと言い切ることは難しいと先生がおっしゃっていました。なので、ギウ個人のケース、ギウのバックグラウンドをしっかり描くことを意識しました。こういう過去があって、こういうトラウマがあるから、こういう行動に出るんだということを、まず僕自身が理解することから始めました。

 そして、監督といろいろと話をしながら役を作り込んでいったわけですが、本作において感情を表現する演技はテクニックでどうこうなるものではないと感じました。特にギウの場合、感情がコントロールできず極限まで達してしまったときの表現に気を配る必要がありました。下手をすると演技をしている“振り”に見えてしまう可能性があったからです。そうならないように、ギウの行動一つひとつに対して、彼がそれまで生きてきた背景を重ねて理解しようと努めましたね。ギウの立場に立って、彼が置かれた状況、何が彼の感情の導火線に火をつけるのかを考えながら、水が流れていくような感じで演じることを心がけました。

 もう一つ気をつけたのは、ギウに精神疾患があるということを定義づけてしまわないことでした。あくまで彼は心に大きな痛みを持っている人なのだと、それを家族によって治癒されている段階なのだと、そんなふうにとらえて演じていました。

 本作の公開にあたりいろいろなインタビューを受けてきましたが、僕も監督も一度もギウが精神疾患を患っていると断定して話したことはありません。ギウがどういう人物で、どういう人生を生きているかは、決して病気で片付けられることではないということを常に念頭において撮影にのぞんでいました。

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