――物語の後半、ギウが家族を探し歩くなか、スーパーでものをむさぼり食べるシーンがありました。彼の心の痛みを感じ、胸に迫る場面でしたが、撮影時のエピソードはありますか?

 後半になればなるほど、ギウは一人で孤立していく状況になっていきます。ある意味、自分自身を崖っぷちに追いこんでいくような、そんな状況になっていくんです。この映画は地方で撮影をしたのですが、そうしたギウの状態に近づけるよう、撮影中は僕自身もできるだけ一人きりでいる時間を持つようにしていました。

 また、この映画は何かを食べる場面が非常に多く出てきますが、そのときどきでどのように表現しようか悩みましたね。ギウの場合、単純にお腹がすいたから何か食べるというのではなく、自分の中の虚しさや痛みを満たすために食べ物を口に入れるという行動をとっています。そうしたことを意識しながら演じていました。

『高速道路家族』Ⓒ 2022 Seollem film, kt alpha Co., Ltd. All Rights Reserved.

――今回、父親役を演じましたが、ギウにとって家族はどのような存在だったと思いますか? また、イルさん自身が理想とする父親像、家族像はどんなものですか?

 ギウにとって家族はまさに生きていくのになくてはならない、絶対に必要な存在です。だからこそ物語後半で家族と引き裂かれたとき、彼はもうこれ以上生きていく理由をなくしてしまうわけです。

 僕自身にとっても家族は、俳優という仕事をするうえで大きな支えになってくれる存在です。実際に両親のおかげで今こうして俳優として成長できていると思うと感謝してもしたりません。

 理想的な父親像は……あまり考えたことはありませんが、まず子供と同じ目線でいろんな物事を見てあげられることが大切かなと思います。子供の話をちゃんと聞いて、正しい道へとうまく導いたり、そばでサポートしたりしてくれる、そんな存在じゃないかなと思いますね。

 今の社会を見ていると、子供にああしなさい、こうしなくちゃダメというふうに親の考えに縛りつけている人も多いように感じます。でも、自分ならそんなふうにあれこれと押し付けることはしたくないですね。子供が何を好きなのか、何をしたいのかをまずちゃんと聞いてあげたいと思います。その子の能力や好奇心を上手くリードしてあげられれば、本人が自分の道を探し出せると思うので、案内役のような、そんな役割をできればいいんじゃないかなと。実際に僕の両親はそういう育て方をしてくれました。(インタビュー後編に続く)

●『高速道路家族』ストーリー

 高速道路のサービスエリアを転々とし、テント暮らしをしているギウ(チョン・イル)と3人の家族。サービスエリアの利用者に2万ウォンを借りながら、その日その日を食いつないでいる。そんなある日、すでにお金を借りたことのあるヨンソン(ラ・ミラン)と再び遭遇し、不審に思ったヨンスンによって警察に通報されてしまう。ヨンソンは残されたギウの妻ジスク(キム・スルギ)と2人の子供たちを放っておけず、家に連れ帰り、一緒に暮らすことに。ジスクと子供たちは衣食住の不安のない生活に溶け込んでいくなか、ギウは家族を取り戻そうとある行動に出る……。

『高速道路家族』Ⓒ 2022 Seollem film, kt alpha Co., Ltd. All Rights Reserved.

●公開情報

『高速道路家族』シネマート新宿ほか全国順次公開中

[2022 年/韓国/128 分]監督・脚本:イ・サンムン

出演:チョン・イル、ラ・ミラン、キム・スルギ、ペク・ヒョンジン

配給:AMG エンタテインメント

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公式サイト:https://kousokudouro-kazoku.jp