「死んだはずの稀代の詐欺師が生きていた！」そんな都市伝説のような証言から始まり、謎が謎を呼んでいくKサスペンスの話題作『餌【ミッキ】』。
昨今、社会問題として大きく浮上している“詐欺”について、警察・詐欺組織・詐欺被害者それぞれの視点から描いた本作。正義・再起・復讐それぞれの目的を果たすべく、騙し合い駆け引きを繰り返す緻密な心理劇、その裏にある哀しき人間ドラマでも魅せられる。
物語を牽引するのは、アジアのトップスターとして多彩な魅力で支持されてきた俳優チャン・グンソクと、『イカゲーム』でブレイク以来、個性派俳優として引く手あまたの活躍を繰り広げるホ・ソンテ。
脚本は、『ミストレス～愛に惑う女たち～』のキム・ジヌク、演出は『ボイス〜112の奇跡』や『ペーパー・ハウス・コリア：統一通貨を奪え』など傑作サスペンスを多く生み出してきた名手キム・ホンソンと、実力派たちが結集している。
ここでは、本作の注目ポイント＆見どころを、『韓国TVドラマガイド』編集部のヒューマンドラマ好きとサスペンスマニアの2人が対談形式で分析！
■チャン・グンソク×『イカゲーム』ホ・ソンテ共演のKサスペンス『餌【ミッキ】』見どころは？
杉本真理：『餌【ミッキ】』を観る前に抑えておきたいのは、これが韓国最大の投資詐欺事件を題材にしているということ。韓国ドラマは、時代劇も含めて実際にあった出来事をモチーフに大胆なアレンジを施してエンターテインメントにしていくのが上手いけれど、その1本だね。映画『オオカミ狩り』の監督も言っていたけれど、そもそも韓国人は実在の出来事が起点になっていない作品には興味を抱かないとか。
高橋尚子：『餌』の場合、2004年から2008年にかけて約4兆ウォンを多くの人から騙し取り、逃亡先の中国で死亡した詐欺師の事件がもとになっている。ホ・ソンテ演じるノ・サンチョンがその人だね。映画『MASTER／マスター』でイ・ビョンホンが演じていた詐欺師もそう。映画は全く違った描き方だったけれど、死んだはずの詐欺師が実は生きていたという設定は同じ。それほど韓国人にとっては強烈な事件だった。ほかにも韓国で実際に起きた数々の詐欺事件を参考に、ストーリーを練り上げたそう。
杉本：日本人に比べて、韓国人は投資熱が高く、お金を増やすことに関心も多い。それこそドラマでも、儲け話から借金地獄まで、お金の話をよくしているイメージがある。家族にお金を持ち逃げされるシーンは基本だし、口約束から始まるお金のトラブルのネタも多く描かれている。
高橋：それによって家族が崩壊したり、自殺に追い込まれたりと、人の人生を大きく変えてしまうことがあるにもかかわらず、騙された方に非があるように言われがちで、詐欺は刑としても軽く、被害者が泣き寝入りするケースが多い。ソ・イングク主演のファンタジーヒューマン『もうすぐ死にます』でも主人公チェ・イジェが、親しい友人（キム・ソンチョル）の勧めで投資して一文無しになる。詐欺で逃げた友人を捕まえてくれと訴えるイジェに、警察は「利益を得るために投資をして、損をしたからと詐欺罪で訴えることはできない」と一蹴するんだよね。絶望の果てに自殺を試みるところから物語が始まるんだけど、『餌』に出でくる詐欺被害者と同じだなぁと思った。
