ナムグン・ミン主演の珠玉のロマンス史劇『恋人〜あの日聞いた花の咲く音〜』は、第16代王・仁祖(インジョ)の時代に起きた、清(後金)の朝鮮侵攻、いわゆる〝丙子(へいし)の乱(丙子胡乱/ピョンジャホラン)”を背景に、戦乱の世に翻弄される男女の姿を切なく美しく描いた壮大な物語だ。
本作での仁祖は、朝鮮王室の分断を狙う清の狙いにまんまとはまり、もっとも信頼すべき世子(演じているのは『ブラックペアン2』のミンジェ役も話題のキム・ムジュン)の忠心を疑った結果、捕虜になった朝鮮の民を救うことも拒否した愚王として描かれている。加えて、我が子に王位を継がせたい側室に翻弄されるダメっぷりもクローズアップされていた。
■ナムグン・ミン主演『恋人』にも登場する仁祖の始まりは復讐心、王になりたかった男
仁祖ことイ・ジョンは、1595年、第14代・宣祖(ソンジョ)の五男・定遠君(チョンウォングン)の長男として誕生、1607年に綾陽君(ヌンヤングン)に封じられる。宣祖の寵愛をもっとも受けていた仁嬪キム氏とその息子たちは、もともと玉座への野心も強く、伯父にあたる時の王、第15代・光海君(クァンヘグン)への不満を募らせていたといわれている。
そんな中、綾陽君の優秀な弟・綾昌君(ヌンチャングン)が、光海君を支持する大北派(テボクパ)によるでっちあげの逆謀罪で殺され、その心労で父の定遠君も亡くなった。綾陽君は光海君への復讐心を募らせ、自ら軍資金を調達、反乱を主導すべく、その時を虎視淡々と狙うようになる。
1623年。「崇明排金(清)」を大義名分にあげ、光海君の政治に反対する政治派閥・西人派(ソインパ)と手を組み、クーデターで王位を奪った。世にいう仁祖反正(インジョパンジョン)である。
このとき綾陽君28歳、念願の権力の座だった。
■時代が読めず、清を怒らせ、戦に負けた“負の王”
王になった仁祖は、光海君時代の中立外交を否定し、後金(のちの清)との交易を廃止、ゲリラ戦を展開する。その結果、朝鮮の地は、文禄・慶長の役(壬辰倭乱/イムジンウェラン)以来の混乱を生むことになる。朝鮮の挑発に怒った後金軍が2度に渡って国に攻め込んでくるのである。
1度めの侵攻・1627年の丁卯胡乱(チョンミョンホラン)の敗北では、「後金を兄国と敬うこと」を命じられた。その後、国名を清と改め、ホンタイジが2代皇帝となると、今度は君臣関係、朝貢を求めるように。ところが仁祖はこれを「崇明排金」の精神で拒絶する。すると皇帝自ら20万の兵を率いて2度目の侵攻(1636年)を開始する。これが、丙子胡乱だ。