賢い医師生活』のチョ・ジョンソクと『アスダル年代記アラムンの剣』のシン・セギョンが主演を務める時代劇『魅惑の人』がNetflixでも配信され、毎週トップ10入りを果たす人気を獲得している。

 本作は、清との戦に敗れた頃の朝鮮王朝を舞台に、架空の王の苦難の道と彼に復讐を誓うヒロインとの悲しき因縁を描く切ないラブロマンスだ。

 冒頭から、兄王を慕い、民を思う、チナン大君イ・イン(チョ・ジョンソク)に引き込まれる。優しい王子が、ある決意を持って冷酷な王へと変貌していく姿が印象的だ。

 ところで、第1話では、チナン大君が戦争捕虜(人質)として清に連行される場面がある。行くのは怖くないかと問われると「清について知れば、(清に)勝つ術が見つかるのではないか」と語る姿が頼もしかった

 実は、このチナン大君イ・インのように8年もの清での人質生活を送りながら、清から学び、朝鮮の民のために奔走した王子がいた。第16代王・仁祖(インジョ)の長男、昭顕(ソヒョン)世子、その人だ。

■第16代王・仁祖の長男、昭顕世子は妻や弟とともに人質として清へ

 1612年生まれで名前はチョ。父は14代・宣祖の五男である定遠君(チョンウォングン)の長男、綾陽君(ヌンヤングン)。幼いころは血筋のいい王族のひとりでしかなかったが、1623年に父がクーデターを起こして王(仁祖)になったため、1625年、14歳で王世子に冊封された。

 1627年、丁卯胡乱(チョンミョホラン)で後金(のちの清)軍が漢城まで攻めてくると、仁祖や朝廷の高官は江華島に避難してしまったが、昭顕世子は分朝を率いて全羅道全州に下り、南部の民心を収拾したと評価されている。

 清の2度目の侵攻、1636年の丙子胡乱(ピョンジャホラン)で敗北した朝鮮は、清と君臣の関係となった。昭顕世子は、妻の姜嬪(カンビン)、弟の鳳林大君(ポンニムテグン)をはじめとする300人あまりとともに人質として瀋陽まで連れて行かれた。

 清は昭顕世子を単なる人質とはせず、国王の代理者として考えており、大使館のような役割を果たす「瀋館」が用意され、世子一行はそこに滞在することになる。『魅惑の人』におけるチナン大君も、清ではまさにそんな扱いを受けていた。