■韓国人と日本人のメンタリティの違い

 日本人監督の作品だけあって、韓日のメンタリティの違いを鮮明にする描写も印象に残った。

 深夜、田舎のコンビニの前で身世打鈴(シンセタリョン=身の上話、嘆き節)をしながら泣いている歌手に小説家が声をかける。

「オレは……父親だから……泣いちゃいけないから……。だから素直に泣いているあなたが素敵だと思う」

 こうした言葉は韓国にハマった日本の人からよく聞く。

 日本には「言わぬが花」ということわざがあるが、韓国には「肉は噛んでこそ味があり、言葉は言ってこそ味がある」ということわざがある。胸につかえていることは吐き出してしまえという考え方が優勢なのだ。子供のころから学校でも塾でも、発表する力を養う機会は多い。

 韓国人の演技や歌は、荒削りだが、訴えかける力があるといわれるが、案外こんなことに起因しているのかもしれない。

春の日は過ぎゆく』でイ・ヨンエ扮するPDが住んでいた墨湖(ムッコ)のアパート

■大事なのは、「ビールください」と「愛してます」の2フレーズ

 主人公の兄(オダギリジョー)は何かにつけてビールを飲もうと言い、アルコール依存の気があるが、それによって2つの家族が救われている面もある。

メクチュ ジュセヨ(ビールください)、サランヘヨ(愛してます)。この二つだけ知っていれば、この国でやっていける」

 兄が弟に言うこのセリフは、韓国と日本の間にあるしがらみを乗り越えるきっかけになる、じつは含蓄のある言葉だ。

 日本の人は語学好きだが、コミュニケーションよりも学ぶことが好きな人が多いように見えて少々息苦しく感じることがある。日本人と韓国人は言葉だけでなく、本当は皮膚感覚で共感できる部分が多いはずだ。

 酒で肩の力を抜き、率直に好意を示すことが大事。無責任な兄の言葉だが、意外と芯をついていると思う。

 本作は日本人と韓国人のコミュニケーション場面以外にも、田舎の風景や食事の場面など、旅情を刺激するシーンが多いので、韓国の地方に興味のある人にはぜひ観てもらいたい。

『アジアの天使』にはCass freshを飲むシーンがたびたび登場する