ソン・ジュンギの笑顔を見ていると、芳醇なバニラアイスの甘さを微かに感じてきた。それが、『トキメキ☆成均館スキャンダル』からずっと抱いてきた彼のイメージだ。

 しかし、ソン・ジュンギ本人は「役柄の固定化」を打破する作品に果敢に挑戦してきた。

 そういう意味で、彼はいつも心地よく意表を突いてくれる俳優だ。演じる役の意外性がソン・ジュンギの俳優としての矜持になっている。

■映画『このろくでもない世界で』トップ俳優ソン・ジュンギが見せた新境地

 最新映画『このろくでもない世界で』においても、ソン・ジュンギが見違えるような変化を見せてくれた。演じたのは、全身に生々しい傷が残る犯罪組織のリーダー・チゴン。彼がスクリーンに現れると、とてつもない緊張感が生まれる。それこそがまさにトップ俳優のオーラそのものだ。

 本当に、『このろくでもない世界で』はソン・ジュンギの表現者としての真骨頂を存分に感じられる映画となっている。

 物語は社会格差の闇を鮮烈に描いており、18歳のヨンギュ(ホン・サビン)が、同じ高校の学生を石で殴るところから始まる。

 彼は、義理の妹ハヤン(キム・ヒョンソ)を守るために暴力沙汰を起こして高校を停学となり、示談金も求められる。

 過酷な現実に翻弄された彼に助け船を出してくれたのが、犯罪組織のリーダーのチゴン(ソン・ジュンギ)だった。なんと、示談金に相当する額を渡してくれたのだ。絶望的なヨンギュの瞳がかつての自分と似ていた、という理由だけで。

 結局、アルバイトをクビになったヨンギュは、チゴンの配下に入るしか残された道はなかった。やらされたのは組織的なバイク窃盗。理不尽なこともやりぬいて、ヨンギュは徐々に憧れのチゴンに認められていく。しかし、組織の非情な掟に背いてしまう。

 支えてあげたかったハヤンを巻き込んだヨンギュは、悲壮な覚悟でチゴンの前に現れる。絶望感を漂わせる2人が交錯した時、新たなる悲劇が生まれ、彼らの運命は予想外の方向へ走り出す……。

『このろくでもない世界で』(C)2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.