■『貞淑なお仕事』の後半、『八月のクリスマス』と香港映画『ラブソング』へのオマージュも

 ドラマや映画を観ていると、演出家がどんな作品が好きなのか見えてくることがある。

『貞淑なお仕事』の9話では、主人公ジョンスク(キム・ソヨン)とキム・ドヒョン刑事(ヨン・ウジン)が、雨の並木道をビニールテントの切れ端のようなものを傘代わりにして歩くシーンがあった。

 これは名作映画『八月のクリスマス』のハン・ソッキュシム・ウナのシーンへのオマージュだろう。この場面は映画には登場しないが、DVDやCDジャケットで写真が使われているので覚えている人は多いはずだ。

 また、12話では1990年代のヒップホップスター、ソテジワアイドゥルの歌謡賞受賞を伝える電器店のテレビの前で、ジョンスクとドヒョンが見つめ合うシーンがあった。

 これは、日本人がアジアのスターにあこがれるという意味で、韓流スターの前身といわれる香港明星の一人、レオン・ライ(黎明)主演映画『ラブソング(甜蜜蜜)』(1996年)へのオマージュであることは明らかだ。この映画のラストシーンで、レオン・ライとマギー・チャン(張曼玉)が再会したシーンも同じ構図だった。

『貞淑なお仕事』は、韓国がエンタテインメント大国になるなど誰も想像できなかった、1990年代前半の空気をよく伝えているという意味でも秀作だ。

●配信情報

Netflixシリーズ『貞淑なお仕事』独占配信中

[2024年/全12話]演出:チョ・ウン『ジャスティス―復讐という名の正義―』『時速493キロの恋』 脚本:チェ・ボリム『キム秘書はいったい、なぜ?』『九尾の狐とキケンな同居』(共同執筆)

出演:キム・ソヨン『ペントハウス』シリーズ、『九尾狐伝1938』、ヨン・ウジン『39歳』『今日もあなたに太陽を~精神科ナースのダイアリー~』、キム・ソンリョン『こうなった以上、青瓦台に行く』『キミはロボット』、キム・ソニョン『愛の不時着』『人生最高の贈り物 ~ようこそ、サムグァンハウスへ~』、イ・セヒ『紳士とお嬢さん』『リーガル・クレイジー 真剣勝負