韓国で昨年末に開催された「2024 MBC演技大賞」が、1月31日にKNTVで日本初放送された(2月、3月に再放送予定)。
大賞に輝いたのは、ドラマ『こんなに親密な裏切り者(原題)』で主演をつとめたハン・ソッキュ。受賞スピーチは、韓国で放送された直後から大きな話題に。日本でも各所で取り上げられていたが、胸を打つ内容だったので、ここでも少し紹介したい。
■「2024 MBC演技大賞」ハン・ソッキュの受賞スピーチが話題、篤実なイメージは四半世紀前から変わらぬまま
スピーチの冒頭「こうした祭典を行うことについて、なんとも申し訳ない気持ちです」と声をしぼり出すように話しはじめたハン・ソッキュ。まずは祭典前日に発生した旅客機事故の犠牲者とその遺族へ、哀悼の辞を述べた。
そして、「『こんなに親密な裏切り者』への出演を決めたのは、家族の大切さを伝えたかったからです。生涯をかけて私が追うべきテーマは、家族なのかもしれない、そう感じさせてくれた作品でした」と語った。
このあと「そんな大切な家族を失われた方々」と言いかけたが言葉をつまらせ、長い沈黙のあと、再び哀悼の意を伝えて壇上をあとにした。
3分足らずの短いスピーチだったが、韓国では「これまで見たどの受賞スピーチよりも感動した」、「嘘偽りのない気持ちと高い品格が伝わってくる」、「尊敬する偉大な俳優」といった彼を称賛する投稿がSNSで多く見られた。
ハン・ソッキュといえば、演技力もさることながら、その人間性が支持される俳優のひとりだ。今回のMBC演技大賞でミニシリーズ部門の最優秀演技賞を受賞したユ・ヨンソクをはじめ、多くの役者が、尊敬する先輩にハン・ソッキュの名前を挙げている。
二十数年前のことだが、私が通っていたソウル市内の語学学校では、ハン・ソッキュを称える教材で韓国語を学ぶ授業があった。
教材といっても、先生自作の例文が書かれたプリント用紙。そこには「ハン・ソッキュさんはとても真面目です。そして誠実です」、「ハン・ソッキュさんは優しい人です」「ハン・ソッキュさんは知的です」といったセンテンスが羅列されており、ハン・ソッキュとおぼしき似顔絵まで描かれていた。
1990年代初頭、韓国で大ヒットしたドラマ『息子と娘』や、1999年に日本でも公開された映画『八月のクリスマス』で、彼はまさにそんな役を演じていた。
先生は、ハン・ソッキュのファンだったに違いない。リーディングの授業だったように記憶している。ハン・ソッキュ称賛文を何度も声に出して読み上げ、暗記した。だからだろうか、今でもハン・ソッキュの作品を見ると「誠実」、「真面目」などの韓国語が私の頭をかけめぐる。だが、今回の受賞スピーチによって、かつて暗記したセンテンスに命が吹き込まれたような気がした。