ちなみに、そのテキストには、対比するセンテンスも記されていた。「チェ・ミンシクさんは不真面目な人です」、「チェ・ミンシクさんは不誠実です」。横には、どうみても俳優チェ・ミンシクにしか見えない似顔絵が添えられ、辛辣な文が連なっていた。

 チェ・ミンシクといえば、今では韓国を代表する名優。昨年、日本でも公開された映画『破墓』では、人間味あふれる風水師を熱演。12年ぶりに出演したトーク番組でも、気さくでユーモラスな人柄を披露していた。

 にもかかわらず、かつて懸命に暗記した手作り教材のせいで、私はいまだに彼を見ると、「不誠実」、「不真面目」といった単語が頭をよぎる。脳科学によると「文字はイメージとともに覚えると、長期間記憶にとどまる」とか。その意味ではよくできた教材だったというべきだろうか。

 それにしても、大学附属の語学学校で、俳優の名前を勝手に借用し、こんなエキセントリックな教材で授業が進められていたのだから、ゆるい時代だったなと思う。

 2025年の今、当時のテキストを作成した先生が同じ教材を作るとしたら、「誠実な人」に誰を選ぶだろう? 私なら、やっぱりハン・ソッキュだな、とMBC演技大賞を見ながら確信した。

弘大(ホンデ)エリアにあるカフェ