大傑作『オク氏夫人伝 -偽りの身分 真実の人生-』は、今まで見たことがないような韓国時代劇だった。見終わっても、余韻がまったく消えていかない。とてつもない名作を見た感激にずっと浸っていられる。

 そこで、今までに見た韓国時代劇の中で「これが一番」と言える理由を考えてみた。(以下、一部ネタバレを含みます)

■韓国時代劇『オク氏夫人伝』を「個人的ベストワン」に推す5つの理由

 最初の理由は、脚本の出来の良さだ。イム・ジヨンが演じる奴婢(ぬひ)のクドクが、やがて両班(ヤンバン)の令嬢オク・テヨンになり、外知部(ウェジブ/裁判や訴訟の弁護人)の有能な女性として村の人々を幸せに導く物語が秀逸だ。

 悔しくて辛い日々がたくさんあったのに、オク・テヨンはすべて肯定的に乗り越えていく。その過程がとてもスリリングで、人情と愛情に満ちていた。

「ドラマは脚本が第一」

 そのことを『オク氏夫人伝』は見事に実現させていた。

 2つ目の理由は、「考え方ひとつで人生を変えられる」ことをドラマが常に強調してくれたことだ。

 登場人物のソン・ソイン(芸人としての名前はチョン・スンフィ、若手俳優のチュ・ヨンウが演じている)、ソン・ドギョム(キム・ジェウォン)、チャ・ミリョン(ヨヌ)のみんなが、最後はこだわりを捨てて自分自身を「望むべく姿」に変えていった。

 その際、葛藤を乗り越えていく様子がとても頼もしかった。これほど、見ていて前向きになれる時代劇はなかった。

 次の理由は、「完璧な結末の素晴らしさ」だ。クライマックスに関してはたくさんのことを語りたいが、まだ見ていない人もいるので、あえてここで語ることは控えたい。

 4つ目の理由は、エンタメという形を取りながら、人間社会の問題点を複合的に取り上げたことだ。

 根本的な身分差別の理不尽さ(奴婢があまりにも非人間的な扱いを受けていた)、非情がまかりとおる社会制度、巨悪が闇に隠れる不条理、政治家が私腹を肥やす悪辣さ……その指摘には常に現代的な視点が欠かせなかった。

 時代が変わっても人間の本質は変わらない。その普遍的な真実に気づかせてくれる指摘が物語の中に散りばめられていた。