韓国人女性が日本の奈良県五條市を旅する映画『ひと夏のファンタジア』などで知られる、映画監督チャン・ゴンジェ。彼の最新作『ケナは韓国が嫌いで』(主演コ・アソン/『サムジンカンパニー1995』)が、3月7日(金)より日本で公開される。

 同時期、チャン・ゴンジェ監督の作品のなかから注目の4作が、3月7日(金)東京・ユ―ロスペースほか全国順次公開される。今回はそのなかから、人気ドラマに出演するバイプレイヤーのなかでも抜きんでた存在感のある、女優キム・ジュリョン主演映画『眠れぬ夜』の魅力をお伝えしよう。

■夫婦の日常を淡々と描いた映画『眠れぬ夜』

 『眠れぬ夜』は結婚二年目の共働き夫婦の日常を描いた作品だ。夫と妻のちょっとしたいさかいはあるが、それが大事件に発展するわけでもない。夫が浮気したり、妻が心を病んだりするわけでもない。もちろん、男尊女卑を糾弾する作品でもない。

 仕事をしたり、食事したり、酒を飲んだり、公園でくつろいだり、愛し合ったりする夫と妻の姿を我々はただ見つめるだけだ。休みの日に「映画でも観ようか」と劇場に出かける市井の人々に、映画とは何か? を説くときの教材になりそうな作品である。なぜこれが映画として成立しているのか、機会があれば専門家の解説を聞きたいものだ。

夫婦がまっすぐ向き合うシーンがとても清々しい映画『眠れぬ夜』 配給:A PEOPLE CINEMA/chocolat studio

■キム・ジュリョン、こんなにきれいな人だったのか……『イカゲーム』『涙の女王』の名バイプレイヤー

『眠れぬ夜』は、不思議な心地よさを与えてくれる映画だが、その大役を果たしているのが妻役の女優キム・ジュリョン(1976年生まれ)だ。独特の目力でサイコパスな人物を数多く演じている人である。

 世界的大ヒット作『イカゲーム』シーズン1では、勝つためには手段を選ばず敵を口汚くののしるミニョ役に扮して、話題を集めた。

 日本でもドラマ化された『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』12話では、ユン・セア演じるスンヘの姉に扮し、顔を引きつらせながら英語まじりでまくし立てる演技が印象的だった。

 コン・ユ主演映画『トガニ 幼き瞳の告発』では、悪魔のような校長(チャン・グァン)の愛人に扮し、人は特殊メイクなしでも観る者をこんなに震撼させられるのかと思わせた。

 最近では、キム・スヒョンキム・ジウォン主演『涙の女王』で、敵対する二つのグループの間で要領よく立ち回る野心家、グレイスに扮し、視聴者を翻弄した。

 キム・ゴウン主演『シスターズ』で弁護士パク・ジェサンの妻を演じた同世代のオム・ジウォン(1977年生まれ)とはまた違った “恐怖女性” のイメージが強いキム・ジュリョンだが、この人はじつはなかなかの美人なのでは? と前から思っていた。

『眠れぬ夜』はその疑問に明確に答えてくれた。夫の前でしか見せない部屋着でリラックスしている姿、ヨガのインストラクターとして生徒の前で四肢をゆっくり伸ばす姿、夫が作ったピピムを美味しそうに食べる姿、夜、自転車で疾走する姿……。

 怪女キム・ジュリョンのまったく別の姿が見られる貴重な映画である。

怪女をたびたび演じたキム・ジュリョンのまったく違う姿が見られる映画『眠れぬ夜』 配給:A PEOPLE CINEMA/chocolat studio

●公開情報

特集上映「映画監督チャン・ゴンジェ 時の記憶と物語の狭間で」

3月7日(金)東京・ユーロスペースほか全国順次公開

上映作品:『十八才』『眠れぬ夜』『ひと夏のファンタジア』『5時から7時までのジュヒ』

配給:A PEOPLE CINEMA/chocolat studio