カン・ハヌルコ・ミンシNetflix主演ドラマ『隠し味にはロマンス』は、主人公ヨンジュ(コ・ミンシ)がかつて勤めていたレストランが札幌にあったり、彼女の料理の師匠が日本人だったりと、制作陣に日本通、あるいは日本好きがいるのだろうと思いながら見ている。(以下、一部ネタバレを含みます)

■『隠し味にはロマンス』で撮影が行われた札幌、1990年代末から北海道の雪景色に憧れていた韓国

 ヨンジュの古巣のレストランはフレンチの店だからパリのほうが説得力が増すのに、日本にある店であることを強調するように、6話と7話では札幌や小樽での撮影が行われていた。パリではなく札幌なのは、もちろん予算の都合もあるのだろうが、それ以外の理由も考えられる。

 ひとつは北海道の雪景色に対する韓国人の憧れだ。最初の契機は “バラードの王子” と呼ばれた人気歌手チョ・ソンモの歌「不滅の愛」のミュージックビデオが撮影された1998年だろう。

 その映像には、当時20代後半のイ・ビョンホン扮する病身の主人公がよろめきながら雪の札幌を歩く様子が映っている。今の韓国では走っている姿が見られない路面電車、路面電車の運転席にカメラを据えて撮影した銀世界、イ・ビョンホンの濃厚な演技……。

 最近の韓国のスタイリッシュな映像を見慣れている者にとっては、雪景色なのにかなり重苦しく感じられるのだが、今のように海外旅行が一般的ではなかった1990年代後半の韓国人のハートを射止めるにはじゅうぶんな映像だった。

 また、1999年には北海道の雪景色のシーンの多い映画『ラブレター』(岩井俊二監督)が韓国で公開され、当時としては異例の百万人以上を動員。主演の中山美穂のセリフ「お元気ですか~」は流行語にまでなった。

 最近では、キム・ヒエ主演映画『ユンヒへ』(2019年)が思い出される。こちらは札幌ではなく小樽の片田舎で撮影されている。余白の多い水墨画のような繊細な映像は韓国人だけでなく、雪と縁遠い地域に住んでいる日本人の心をも捉えたはずだ。

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