■『消防士 2001年、闘いの真実』の舞台、ソウル市・弘済洞にあるケミマウル

 火災現場となった弘済洞は、朝鮮王朝時代の王宮だった景福宮の北西部、西大門区に位置し、仁王山、北岳山、北漢山などに囲まれた盆地である。弘済洞の地名は、朝鮮王朝時代に中国の使臣や朝鮮の官吏たちが、ソウル城郭内に入る前に宿泊した国立の宿泊施設「弘済院」に由来する。

 弘済洞といえば、急坂にある弘済ケミマウルが頭に浮かぶ。映画『7番房の奇跡』で、リュ・スンリョンが演じる知的障害をもつ父親と6歳の娘が住む町の撮影が行われた場所だ。

 朝鮮戦争後、住まいを失った人々が、急坂の斜面にテントを張り暮らし始めた。その後、テントは無許可で建てたバラックにとって変わった。住民たちが懸命に働くことから、「蟻の村」を意味する「ケミマウル」と呼ばれ始めた。

 高齢者が中心のこの村に、美大生たちが壁画を描いたことで、ケミマウルは注目されるようになった。その一方で、無許可建築の建物には、都市ガスが敷設されておらず、現在でも暖房や炊事には練炭を使用している。また、自宅にトイレがない住民は、マウルの公衆トイレを利用しているといい、首都ソウルとは思えない立ち遅れを感じる。

 最近でも住宅の外壁が崩壊する事故が起きたばかり。再開発に賛成の声もあれば、ケミマウルを文化特区として保護すべきとの意見が拮抗し、開発が難航しているという。

ひしめき合うように家が立ち並んでいる弘済ケミマウルでは、映画『7番房の奇跡』の撮影も行われた
都市ガスが敷設されていない弘済ケミマウルの住宅前には、熱源として利用している練炭が山積みされている

●ソウル・弘済ケミマウルへのアクセス

地下鉄3号線・弘済洞駅そばからマウルバスで約15分。