ヨーロッパではかなりの知名度があり、日本でも昨年11月から近作5本が連続上映されているホン・サンス監督。映画好きには高く評価されているが、ライト層からは、「難解」「何も起こらない」といった感想をもたれることが少なくない。そのため、名前は知っているが、まだ一度も劇場で観たことがないという人も多いはずだ。
企画上映「月刊ホン・サンス」の最後の作品として、3月21日(土)に日本で公開される作品『自然は君に何を語るのか』は、タイトルからして哲学的だが、ホン・サンス作品にしては珍しく筋らしい筋があり、物語の構造が理解しやすいので、鑑賞デビューには打ってつけだ。
今回はホン・サンス監督の基礎知識と『自然は君に何を語るのか』の鑑賞ポイントをお伝えしよう。
■ホン・サンスの監督デビュー作はソン・ガンホの映画デビュー作
ホン・サンス(1960年生まれ)の監督デビュー作は、1996年の『豚が井戸に落ちた日』。売れない小説家と彼と恋愛関係にある二人の女性(うち一人は人妻)とその夫の行動を鬱々と描いたオムニバス的な映画である。小説家役に『復讐代行人 ~模範タクシー~』『新感染 ファイナル・エクスプレス』のキム・ウィソン。その友人に扮したのは本作が映画デビューで当時29歳のソン・ガンホだ。
続く2作目の『カンウォンドのチカラ』は、大学講師と生徒がそれぞれ別々に江原道の東海岸を友人と旅し、終盤になって二人の関係が明らかになるという話だった。二組の旅の仕方がじつに気ままで、筆者の日本の友人知人には本作を理想的な旅の映画と言う人が多い。
■旅と酒と恋愛を描いた作品
その後は、イ・ウンジュ、キム・サンギョン、キム・テウ、ユ・ジュンサン、イ・ソンギュン、チョン・ユミなど旬の俳優を主役に、2014年までに15作以上を発表。その多くは主人公がソウルや地方の街をほっつき歩き、酒を飲み、恋愛するという話だった。
そして、2011年の『3人のアンヌ』ではフランスの有名女優イザベル・ユペールに一人三役を演じさせて話題となった。
初期の作品には夾雑物や遊びが感じられたが、撮るほどに贅肉がそぎ落とされていった印象である。ここ数年の作品には市井の人々の暮らしを切り取ったドキュメンタリーのように見えるものが多いが、実際はアドリブのない作り込まれた作品ばかりだ。
2015年の『正しい日 間違えた日』は初のキム・ミニ主演作品。以降、監督はキム・ミニが実生活でもパートナーであることを明かし、物議を醸す。本作は3月21日から一部の映画館で『自然は君に何を語るのか』と同時上映される。
2020年以降は、監督自身がカメラを回し撮影を簡素化。2017年の『それから』以降はモノクロ作品率が高くなっている。