韓国最大の島、済州島(チェジュド)は、年間訪問客数が2022年以降4年連続で1300万人を超えるほど、国内外を問わず大人気のリゾート地である。一方、かつてこの島で3万人もの島民が惨殺された「済州島四・三事件」があったことを知る人は少ない。この事件をモチーフにハ・ミョンミ監督が制作した映画『済州島四・三事件 ハラン』が日本で公開中だ。
「ハラン」とは、済州島の中央にそびえる漢拏山(ハルラサン)で冬に花を咲かせる寒蘭のこと。強靭な生命力がある寒蘭のように、済州島四・三事件という悲劇が風化されることなく、長く記憶され続けてほしいというミョンミ監督の願いが込められているという。(以下、一部ネタバレを含みます)
■国家暴力に苛まれた済州島母娘の苦難の日々を描く映画『済州島四・三事件 ハラン』
日本統治から解放後の1948年4月3日、済州島では南北分裂に反発した300名あまりの島民による武装蜂起が起き、これを鎮圧する名目で警察や韓国政府軍による島民の無差別虐殺が起こった。難を逃れるため、島民たちは漢拏山へ逃げ込む。
コ・アジン(キム・ヒャンギ)は義母にひとり娘のヘセン(キム・ミンチェ)を預け、夫カン・イチョル(ソ・ヨンジュ)を探すため、島民たちと山に向かう。しかし、村では軍人たちが容赦なく老人や子供たちまでも射殺する。
生き残ったヘセンは、母を探しに山へ入る。政府軍が村を焼き払ったと聞いたアジンは、ヘセンを探しに山を下る。途中で政府への反撃を企てる武装隊と遭遇したり、政府軍から発砲されたりしながらも、アジンは無事ヘセンとの再会を果たす。母と娘、2人の運命はいかに……。
政府軍や反政府の武装隊に加え、空腹や雨、野犬など、母と娘の逃避行には数多くの障壁があり、ハラハラドキドキの緊張感が続く。どんなことがあろうとも、身を挺して我が子を守ろうとする母の深い情愛、そして母を見つめる幼子の表情に胸が締め付けられる。一方、島民の惨殺を不義と感じる軍人の心の葛藤も描かれており、本事件がいかに大勢の人間を不幸にしたのかを見せつけられる。
本作で6歳の娘をもつ若き母親を演じるのは、『神と共に』シリーズなど、子役出身で抜群の演技力を誇るキム・ヒャンギ。本作の日本公開日のトークショーでハ・ミョンミ監督は、「この役は彼女しかいない」と考え、脚本の第1稿が完成するやオファーしたところ、キム・ヒャンギもストーリーに感銘を受け、快諾してくれたというエピソードを語った。また、ヘセン役のキム・ミンチェについても、オーディション会場に入ってきたときから、監督が思い描いていたヘセンの表情にぴったりと重なったという。
済州島をテーマにした映画を制作したいと考え、2013年に済州島へ移住したというミョンミ監督。近隣に住む90代の高齢者たちは好奇心旺盛で、監督にいろいろと言葉をかけてくれるそうだが、そんな住民との交流の中で聞いた当時の話が、本映画制作の大きな助けになったという。
同監督がプロデューサーとして制作に携わった映画『輝く瞬間』(2021年)でも、コ・ドゥシム演じる済州島の海女の口から、済州島四・三事件にまつわる幼い頃の辛い思い出が語られる場面がある。
『済州島四・三事件 ハラン』の制作にあたり、事件当時の済州島の方言は現在の済州島民ですら理解するのが難しく、10名の方言指導者が俳優ひとりずつについて指導を重ねたという。
●作品情報
映画『済州島四・三事件 ハラン』全国順次公開中
[2025年/119分]監督・脚本:ハ・ミョンミ
出演:キム・ヒャンギ、キム・ミンチェ、ソ・ヨンジュ、キム・ウォンジュン
配給:シネマスコーレ、MYSTERY PICTURES
(C)Whenever Studio