WORLD WIDE GANG REPORT

VOL.3 クリップスとブラッズ 後編

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 1988年にロサンゼルスのコンプトン出身のHIPHOPグループN.W.Aのアルバム『Straight Outta Compton』が発売され、警察を敵視する『Fuck the Police』など過激な歌詞の曲が問題視されながらも、ビルボードの4位に食い込むなど、大ヒットを記録。このアルバムがきっかけでギャングのリアルな生活を歌詞にする「ギャングスタ・ラップ」が世の中に浸透し、ストリートギャングの存在が急速に知られるようになった。

 

■長瀬智也や窪塚洋介が出演した大ヒットドラマにも影響が

 90年代中盤には日本にも彼らを模したストリートギャングが誕生。それまでの暴走族や不良集団とは段違いの暴れっぷりから、日本全国で凶悪事件が続発。当時、ニュースで「カラーギャング」の名を目にした人も多いことだろう。

 また、2000年に放送された長瀬智也主演のテレビドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)に登場したカラーギャング「G-Boys」のファッションは、クリップスやブラッズの影響をもろに受けているのは有名な話。

 なお、明確に色で分けられた“クリップスとブラッズの敵対構造”は外から見ればわかりやすいのだが、おなじクリップスやブラッズであってもセットごとはゆるく連帯しているだけであり、同グループ間での抗争は何度も起こっている。実際には抗争やビジネスにおいて、クリップスのセットとブラッズのセットが手を組むこともある。


Banging on Wax
クリップスとブラッズによるラップアルバムが作られたこともある。

 

 ギャングの多い地域に住む人のインタビューでは「ギャングとは、コミュニティだ」と語るケースもある。地元の不良少年が、仲のいい友達と同じグループに参加する、という図式だ。敵対するギャングのメンバーとは個人的に同じ学校の同級生だったり、親戚だったりする。

 その実情は日本における、ヤンキーの学校同士の抗争のようなレベルから、危険な犯罪集団の殺し合いまで、さまざまなグラデーションが存在する。ただ、取るに足らないような喧嘩でも、銃社会のアメリカでは容易に殺人事件に発展してしまう。

 

■一つ間違えば命取り? ギャングの極秘言語「ハンドサイン」

 クリップスとブラッズなど、ストリートギャングには、彼ら独特の文化が存在する。そのひとつがハンドサインだ。

 親指を手のひら側に曲げて中指と薬指を合わせる、西海岸(West side)を意味するWマークのハンドサインはギャングカルチャーを知らない人にも有名だが、元々は、ロサンゼルスにおける西側を意味するものだった。あまり西海岸の事情を知らなかった東海岸のニューヨーク出身のラッパー、2Pacがメディアで多用したことで広まり、「西海岸」全体をイメージさせるサインとなった。

 ハンドサインは自分たちのグループ名や出身地域をアピールするもの、でもあるが、その実態はもっと現実的。ストリートギャングはその名の通り、自分たちの縄張りを「道」で区切る。道を挟んだ向こう側に別のギャングの縄張りがあることが普通なのだ。

 まだ携帯電話のなかった時代、「自分のシマに敵のギャングが入ってきたぞ」「ナイフで襲うぞ」「数ブロック先に警官がいる」などの情報を伝達する手段として使われ、その意味はそれぞれのギャングや「セット」によって違う。野球チームのサインのように、暗号として使われている言語なのだ。ハンドサインの意味を解説する画像も出回っているが、それが世の中に知られた段階で、現役のメンバーにとって意味をなさない。

■クリップス独自のダンス「C-walk」

動画の2:00あたりからW.CのC-walkが確認できる

 

 クリップスには「C-walk」と呼ばれる、独自のステップが存在する。“敵のギャングメンバーを倒したときに踊ったのが始まり”だと言われ、「C」はクリップスの頭文字を意味する。LAのラッパーでありWestside Connectionのメンバー、“W.C”がライブ等でC-Walkを広めたとされる。

 日本で真似するダンサーも多いが、アメリカではC-walkが原因で抗争に発展することもあり、地域によって禁止されることもある、という。

 

■「スーパーボウル ハーフタイムショー」がもたらした意味

 2022年2月14日にカリフォルニア州ロサンゼルスのイングルウッドで行われたイベント「スーパーボウル ハーフタイムショー」に、ギャングスタ・ラップを世に広めたN.W.Aの元メンバーであり、音楽プロデューサーであるドクター・ドレーと関係の深いアーティストが多数登場した。

 ちなみに「スーパーボウル ハーフタイムショー」とは、アメフトのリーグNFLの優勝決定戦であるスーパーボウルの前後半の間に行われるショーのこと。1993年にマイケル・ジャクソンが出演して以降、毎年有名アーティストによるミニコンサートが行われ、出演者と豪華な演出に注目が集まる。

 出演したスヌープ・ドッグはバンダナ柄の青いジャージのセットアップを着て、ブラッズと関係の深かった2Pacの曲『California Love』に合わせてC-walkを披露した。

 赤こそ身につけていなかったが、同じステージに、ロサンゼルスのコンプトン出身でかつてブラッズと関係の深かったケンドリック・ラマーが登場した。ラマーはリーボックとコラボした際、平和に願いを込めて左右非対称のギャングカラーを表したスニーカー「RED」「BLUE」のデザインを発表したことでも知られる。

 全米で最も視聴されるショーにおいて、かつてギャングスタ・ラップを世に広めた当事者たちが、ロサンゼルスで「青も赤も関係ない」というメッセージを伝えたことは、大きな意味があるだろう。

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