■心が壊れてゆくナンバー1キャバ嬢の末路
だが、ミサトはその日を境に変わってしまった。出勤しても上の空で客からもクレームが来る始末。やがて指名客も来なくなり、待機中もボーッとすることが増えていった。待機中はどこか上の空でブツブツをつぶやいたり、誰もいない客席を見て怯えるようになり、急に泣き出すこともあった。
ついにはMへの恐怖が募りすぎたのか、「最近、Mに見られているような気がする」「昨日、Mの夢を見た。顔がドロドロに溶けて私のことを夢の中で殺そうとしてきた」「Mに殺されるかもしれない」など、良からぬことを言い出すようになった。
店長は毎日、家まで送り届けていて異変がないかを確認していたので幻覚でも見ていたのだろうか。私達が励ましてもミサトの体はどんどん痩せていき、ナンバー1だった姿は見る影もなくなっていった。
■事情を知らぬキャストから意外な証言が
それから、2ヶ月も経たないうちにミサトは店をやめた。ストーカー被害のことは私と店長しか知らなかったため、店中のキャストからは様々な憶測をしていた。だが、そんな中、同じ店のナナというキャストから「アユミさん、ちょっと……」とふと打ち明けてきたのだ。
「実は昨日、違う店に体験入店に行ったんです。そしたらMくんと会ったんですよね」
キャバクラに在籍している以上、他の店に体験入店することは基本ご法度である。ナナはM経由で店長にバレることを恐れているようだった。しかし、ナナの口から飛び出たのは意外な言葉だった。
「Mくんの席に付かされたんですよ。そしたらMくん『ミサトが店をやめたんでしょ?』と言ってきたんです。不気味だな……と思いつつ『それがどうしたんですか?』と尋ねると『僕のせいでやめたんだよね? これでミサトにとって一生、忘れられない男になれた』とニヤリと笑ったんですよね……」
■ストーカー男の生き霊が彼女を壊した?
ミサトが店をやめたことは表沙汰にはしていなかった。当然、Mの耳にも届くはずがない。なぜ、彼がそのことを知っているのだろうか。そして、「忘れられない男になれた」とはどういう意味なのか……。
ミサトはMの悪夢をあれから何度も見ると言っていた。あるときは顔がドロドロに溶けた姿、また別の日はMの顔がグニャッと歪み、『死ね』『お前なんかやめちまえ』などと、ミサトのことを罵倒していたという。
そういえば、こんな話を聞いたことがある。特定の相手に対して強い恨みを持つと、それが生き霊になって相手に飛ばすことができるのだとか。ミサトが見た夢は、もしかするとミサトに強い恨みを念じたMの生き霊だったのだろうか。それとも、単なるミサトの恐怖心からする思い込みから見たものだったのだろうか……?