■ギネスに載った「ブラジル史上最大の銀行強盗」

 

BCBフォルタレザ支店

襲撃されたブラジル中央銀行フォルタレザ支店

画像:Nakinn, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

 ブラジルの犯罪史上最大の銀行強盗とされるこの「フォルタレザ銀行強盗事件(またはブラジル中央銀行金庫破り事件)」が起こったのは2005年8月6日土曜日。狙われたのはブラジル東部セアラ州フォルタレザ市にあるブラジル中央銀行(バンコ・セントラル)の支店だった。

 

 奪われた金額は約1億6000万レアル=約7160万ドル(当時のレートで約80億円)。紙幣が詰まったコンテナ5個の総重量はなんと3.5トンにも及び、被害総額の大きさから当時、ギネスブックに掲載されるほどだったという。

 

 金額でいえば、先に紹介したイラクの2件に比べれば見劣りするが、この事件の特異さは計画の恐るべき綿密さと、それ以上に恐ろしい事件後の顛末だ。

 

ジョタ

首謀者の一人とされる、地元ギャング「ジョタ」こと、アントニオ・ユシヴァン・アルベス・ドス・レイス

 首謀者とされるのは、地元のギャング、通称“ジョタ”こと、アントニオ・ユシヴァン・アルベス・ドス・レイス。ジョタ率いる「強盗団」は厳重に守られた銀行の地下金庫に狙いを定め、数か月前から綿密な調査を開始。3カ月前には銀行近くの商業用物件を借り、ここを拠点に計画は実行された──。

 

■78メートルのトンネルを掘り地下金庫を襲撃

地元紙が報じた、強盗団が拠点とした家

画像:asas journal.blogpostより

 犯行グループは拠点となった家に天然芝と人工芝を販売する造園会社を偽装する看板を設置。3カ月かけて地下4メートルの深さに銀行の下まで長さ78メートルのトンネルを掘った。しかも、崩落を防ぐため木製の梁やセメントで補強されており、照明や空調設備も備えられた本格的なものだった。

 

 のちの警察の発表では、犯行グループのメンバーに数学、工学、トンネル掘削の専門家がいたことが明らかになった。冒頭に名前を挙げた「ペーパーハウス」も様々なプロフェッショナルを集めた「犯罪のドリームチーム」だったが、まさにジョタ率いる強盗団もドラマ顔負けのプロ集団だったのだ。

 

フォルタレザの強盗団が実際に掘ったトンネルの画像。おおよそ70センチ×70センチの狭いものだそうだ。

画像:asas journal.blogpostより

 

 犯行当日の2005年8月6日、強盗団はトンネルから銀行地下の厚さ1.1メートルの鉄筋コンクリートの壁を突き破って金庫に侵入。犯行グループに引き入れていたブラジル中央銀行の職員から入手した情報をもとに、内部の警報やセンサーを回避して金を持ち去った。銀行は営業を開始する月曜日まで被害に気づかなかったという。

 

 しかも、盗まれたのは廃棄処理予定の古い紙幣で、番号順に並んでいなかったため、さらに追跡を困難にさせた。事件後、容疑者なんと129人が逮捕されたが、盗まれた金の大半が行方不明のままとなっている。しかも、この事件の恐ろしさと闇の深さはここからだった──。

 

■次々と事件の首謀者が殺されてゆく

警察に射殺されたり、仲間割れで命を落とすというのは、よく聞く話だが、フォルタレザ銀行強盗事件の場合は……。(写真はイメージ)

画像:Gregory Lee, Public domain, via Wikimedia Commons

 事件の首謀者”ジョタ”は逮捕され、懲役35年の刑が下ったが、これはツイているほうだった。同じくこの事件の首謀者の一人だったルイス・フェルナンド・リベイロは、事件から2カ月後の10月20日、リオデジャネイロから300キロほどの田舎道で遺体となって発見された。実は10月上旬にリベイロは誘拐され、家族は身代金約90万レアルを支払ったのだが、結局、7発の銃弾を撃ち込まれ殺されていたのだ。

 

 さらに翌2006年10月3日には、サンパウロのファヴェーラ(スラム街)で、やはり首謀者の一人と目されていたエバンドロ・ホセ・ダス・ネベスの遺体が見つかった。誘拐され殺害されたリベイロも事件後、サンパウロに身を隠していたとされ、ネベスもまた同じような経緯で悲惨な末路を迎えたと考えられる。

 

 彼ら以外にも、事件から1年弱の間で、犯行グループのメンバー6人が誘拐され、凄惨な拷問を受けたものの、家族が身代金を払い解放されたという。しかも、誘拐や殺害に関して、現役の警察官が関わった形跡があると地元紙で報道され、実際、警察官3人が逮捕されたという。

 

 鮮やかな犯行の手口やプロフェッショナルを揃えたメンバー構成はドラマ顔負けといったが、ここまで陰惨な結末は、ドラマの脚本家も思いつかないことだろう……。

 

■ブラジルでは350億円を狙った未遂事件も

どんな悲惨な結末が待っていようと、銀行強盗で一攫千金を狙う輩は絶えない……。(画像はイメージ) 画像:Shutterstock

 因果応報とはよく言ったものだが、悲惨な結末を迎えた「フォルタレザ銀行強盗事件」。これでブラジルのギャングたちも「わりにあわないから銀行強盗なんてやめよう……」と自粛するかと思えば、そんなことはなかったようだ。この事件から12年後の2017年10月、衝撃的なニュースがブラジルを震撼させた。

 

 サンパウロ市南部にあるブラジル銀行の金庫の下まで続くトンネルが発見され、強盗団の一味16人が逮捕されたというのだ。しかも、トンネル内部には照明が設置され、銀行の金庫室の床や壁には亀裂が入り、いつ犯行が行なわれてもおかしくない状況だったという。

 

 また、警察は強盗団の動きを2か月前から監視していたというが、なぜ、警察はここまで強盗団を泳がせていたのか? フォルタレザ事件の顛末を振り返ると、事件の裏に同じような闇があるのではと勘ぐってしまう読者もいるのではないだろうか。

 

 なお、この事件で強盗団は10億レアル(事件当時のレートで約350億円!)を盗む計画を立てており、構成員は各自20万レアル(約700万円)を出資していた。仮に成功していれば、ブラジル犯罪史上の記録更新となっていたところだが……。