出雲大社をはじめ、大国主命(おおくにぬしのみこと)を祀る神社は数多く、いずれも「縁結び」にご利益があるとする。その理由は、大国主命(=オオナムチ)は恋多き神様だったから――というよりも女性関係が派手。「不倫上等」「同時に二人、三人は当たり前」の状態だったのだ。そこで今回は、そんなオオクニヌシの艶っぽいエピソードを見ていこいう。

 

スセリビメとの新居・杵築宮(のちの出雲大社)に呼び寄せた人物とは……。

画像:Shutterstock

 

■新居に呼び寄せられた元嫁

 

 第6回・中編でご紹介したように、スサノオの娘である須勢理毘売命(すせりびめのみこと)との結婚を許され、新居の宮殿も建てたオオナムチ改めオオクニヌシ。愛する妻と暮らすようになり、めでたし、めでたし――というわけにはいかない。

 

 そもそもオオクニヌシとスセリビメと出会ったのは、兄である八十神(やそがみ)に命を狙われて逃げ込んだ根之堅洲国(ねのかたすくに)でのこと。八十神の恨みを買ったのは、因幡国(いなばのくに)八上比売(やがみひめ)がオオクニヌシ(当時はオオナムチ)を選んだから。「オレたち兄を差し置いて、生意気なヤツ」というのが理由だ(この辺の詳細は第6回・前編をご覧あれ)。

 

こんな感じで兄神の計略で何度も殺されたオオクニヌシ

画像:青木繁「大穴牟知命」/アーティゾン美術館所蔵,PD,via Wikimedia Commons

 

 男の嫉妬は恐ろしいもので二度も殺された(ただし、そのたびに復活した)オオクニヌシ。さらに命をを狙われたため、オオクニヌシはヤガミヒメと結婚していたにもかかわらず、妻を置いて亡命を果たしたのである。こうして、残されたヤガミヒメが、

 

「あの人は根之堅洲国に行っちゃったけど、いつになったら戻って来てくれるんだろう」

 

 とけなげに待ち侘びていたところに、オオクニヌシからの連絡が入る。

 

「ヒメ、ようやく住まいが決まったよ。こっちへおいで」

 

 愛する夫から、ようやく呼び寄せられたヤガミヒメは大喜び。

 

「やっと二人で、しかも新しいお宮殿で暮らせるのね♪」

 

 ヤガミヒメはウキウキ気分で出雲(いずも)へ出かけたのだった──。

 

■宮殿で正妻と第二夫人が同居

 

こんな義理の父スサノオに逆らえるやつはいない。

画像:歌川国輝「本朝英雄傳/牛頭天皇 稲田姫」/
PD, via Wikimedia Commons
 

 

 しかし、そこに待ち受けていたのはオオクニヌシの正妻の座についたスセリビメだった。

 

「なによ、新しい女ができたなんて聞いてないわよ!」

 

 ヤガミヒメは当然のごとく、オオクニヌシに詰め寄る。だが、オオクニヌシは涼しい顔だ。

 

「まあ、そういわずに仲良くやってくれよ」

 

 妻を置いてけぼりにしたまま、新しい女性と結婚。しかも、正妻の座に据えている。少しだけオオクニヌシを弁護するなら、スセリビメが正妻となったのは、義父であるスサノオの命によるものだ。暴君スサノオに逆らえるほど、オオクニヌシの根性は座っていない。

 

 そして、あろうことか正妻と第二夫人の同居をオオクニヌシは促したのだ。

 

オオクニヌシとウサギ

うさぎを助けた頃は凛々しい若者だったオオクニヌシ

画像:Yashima Gakutei, PD, via Wikimedia Commons

 ウサギを助けたやさしさを持ち合わせ、八十神の策略にも疑いを持たなかった純粋無垢なオオクニヌシだが、女性に対するデリカシーに欠けている。たぶん、悪びれた様子もなく、へらへらと笑みを浮かべていたに違いない。

 

“二番手”となってしまったヤガミヒメだが、やっと夫と暮らせるということで、微妙な立場ながらも我慢することになったのである。ただ、「いつか正妻の座を奪い返してやる」と心に誓ったであろうことは、想像に難くない。