怪談実話集『踏切と少女 青柳怪談屋敷・別館』(双葉文庫)を発表したミステリ作家・青柳碧人さんと怪談師・チビル松村さんが、怪談の魅力を語りあうスペシャル対談。最終回となる今回は、取材のスタイルや怪談蒐集の面白さ、これからの活動などについてディープに語らいます。お二人の口から次々に飛び出す、リアルな怪談の数々もお見逃しなく!
取材・文=朝宮運河 撮影=宮本賢一
■怪談取材のできる酒場の特徴
チビル松村さん(以下・松村) 青柳さんは酒場で取材されることが多いそうですね。このお店はいける、という基準はありますか。
青柳碧人さん(以下・青柳) 小さくてあまりお客の来ない店(笑)。お店の人が忙しいと、落ち着いて話ができないですからね。お店の人は暇(ひま)だとひとつふたつ語ってくれますし、それを聞いた他のお客さんが「おれもあるよ」と参加してくれたりする。
その点、カフェや喫茶店は難しいです。このあいだカフェで仕事していたら、2つ横のテーブルに座った女性たちが怪談を始めたんですが、席を移動して話しかけるわけにもいかず。悔しかったですよ(笑)。
松村 明らかに怪しい勧誘だと思われますね(笑)。僕も町角でおばあちゃん二人が井戸端会議をしているところに近寄っていって、ものすごく疑り深い目を向けられたことがあります。
青柳 チビルさんみたいな若い男が話しかけてきたら、そりゃ不審がるでしょう。
■遠野のスナックで耳にした「しみじみ怪談」
松村 年配の方に取材するのが苦手というのは、自覚しているんです。年齢的に昭和の頃のことをよく知らないので、語られている情景が浮かんでこないし、うまく話を引き出すことができない。岩手県の遠野に田中俊行さん(※1)が行きつけだと主張するスナックがあって、そのママさんが怪談を語ってくれたことがあるんです。
※1 呪物蒐集家にして怪談師。大盛況だった田中氏のイベント「呪物書店」(書泉ブックタワー/秋葉原)では、チビル松村氏はじめおばけ座の面々も全面協力した。
ママさんは若い頃、東京のスナックで働いていて、旦那さんはアニメスタジオで働いていた。そのうち旦那さんは過労がたたって入院してしまい、ママさんも店を閉めて看病に努めるんです。ある日、スナックのエアコンの上から三角帽子の小人が現れて、ママさんに挨拶して去って行った。その小人の顔は旦那さんにそっくりで、すぐに病院から旦那さんが亡くなったという知らせが届いたという話です。
青柳 しみじみするいい話ですね。
松村 僕が当時のアニメ業界とかスナックの雰囲気を知っていたら、この話はもっとうまく語れるんだろうなと思うんです。そこは歯がゆいですね。
青柳 怪談師の方にはそれぞれ得意ジャンルがありますし、松村さんは松村さんらしい場所で取材したらいいと思いますよ。