■突然、見知らぬ男たちが!

 

プノンペンのナイトマーケット

様々な人間が集まるナイトマーケット。当然、そこには邪悪なモノも……。

画像:AdobeStock

 

「&#$◎△!!!」

 

 怒鳴り声とともに、複数の男たちが3人を取り囲んだ。肌の色も服装もバラバラで、観光客には到底見えない。何か良からぬことを企んでいる雰囲気だった。

 

「逃げよう!!」

 

 誰が叫んだのかもわからない。ただ、本能的に危険を察知した3人は、一斉に駆け出した。

 

「&#$◎△!!!!!」

 

 背後から怒声が響く。足がもつれそうになりながらも、3人は走り続けた。

 

 どれくらい走っただろうか。突然、視界が開け、大通りに飛び出した。トゥクトゥクや観光客が行き交う光景が広がった。それを見た3人はホッとして、その場に座り込んだ。

 

 

謎の声の主はどこにもいない?

 

女性のバックパッカー
ホテルに戻った彼女たちが聞いた恐ろしい現実とは? 画像:AdobeStock

 ホテルに戻り、3人はロビーに集まり、無理に談笑して先ほどの恐怖を振り払おうとしていた。

 

「……マジで危なかった。さっきのは何だったんだろう」

 

 アヤが震える声で言う。

 

「でもさ、最初に『あっちだよ』って言ったの、誰?」

 

 ユウカの問いに、全員が顔を見合わせた。

 

「え? ミカでしょ?」

 

「いや、私じゃない。言ったのユウカちゃんだと思ってた」

 

「……違う! 私も誰かが言ったのかと思った」

 

「私も……」

 

 誰も言っていない。だけど、確かに3人とも聞いていた。3人とも背筋が凍るのを覚え、誰も口を開かないまま沈黙が流れた。

 

「……やめよ、怖いから」

 

 ユウカがそう言い、3人はそれ以上話さなかった。その時、たまたまロビーでくつろいでいた日本人男性が、何気なく言った。

 

「君たち、夜の街では気をつけろよ。特に人気が少ないエリアは絶対に女同士で行くなよ」

 

「え……?」

 

「強盗とか…時々、行方不明になるやつもいるって噂だ。特に若い女は人身売買の対象とされるとか……って噂もあるからさ」

 

 冗談めかして話す男の言葉に、3人は顔を引きつらせた。

 

 

謎の声の主はもしかすると…

ナイトマーケットに立つ少女の後ろ姿

彼女たちを誘った声の主は現実の人間だったのか、それとも……。

画像:AdobeStock

「もしかして私たちもそれに狙われたの……?」

 

 ユウカが震えながらさきほど起こった出来事を話すと、男はふいに真顔になった。

 

「そうか……。なかには時々、亡くなった奴らが出るって噂もある」

 

「……亡くなった人?」

 

「強盗とかに襲われて命を落とした人たちの霊が出るんだって」

 

 ロビーが静まり返る。

 

「じゃあ、あの声は……?」

 

 3人の背筋に冷たい汗が伝った。念願のカンボジアだったが、彼女たちは何かから逃げるように日本へと帰った。以来、旅行で夜間を移動する際は必ずタクシーを利用しているそうだ。