パタヤは多彩なナイトライフで有名だが、その華やかな歓楽街の裏には、地元の人々のあいだで密かに語られる不気味な噂も存在する。今回は、タイ出張中のカワノアユミが夜の街で耳にした、そんな話のひとつを紹介しよう──。
■パタヤの夜街で再会した知人は

これは、かつてバンコクでライターをしていたオカダさん(仮名)に聞いた話だ。
当時、オカダさんは本業とは別に趣味で現地の事件や事故を取材したブログを書いており、しばしば夜の街を歩いては奇妙な話や裏事情を収集していた。
「当時のパタヤは、今と違ってもっと猥雑でアングラな雰囲気が残っていたんだ。だから何か起きると、つい気になって首を突っ込んでしまってね」
その日、オカダさんはいつものようにソイ6(注1)のあたりを歩いていた。バーの灯りや酔客の笑い声などいかにもパタヤらしい夜の喧騒の中、ふと視線の先に見覚えのある男の姿があった。
注1:両サイドにバービアが軒を連ねるパタヤ有数のナイトスポット
「……あれ? ミヤザキ?」
ミヤザキというのは、オカダさんがタイに住む前、まだバックパッカーとして東南アジアを旅していた頃に知り合った日本人旅行者だった。当時、日本ではバックパッカーブームが続いており、ミヤザキも大学卒業後、長期のアジア旅をしている最中だったという。
■知人の横に立つ「赤い服の女」

再会した知人の横には見知らぬ女が……(写真はイメージ)。
画像:shutterstock(生成AI画像)
「オカダさん、お久しぶりですね! 実は3日前にパタヤに来たんですよ。いま、ソイ6のゲストハウスに泊まってます。オカダさんもしばらくこっちにいるなら、今度飲みましょうよ」
そう言って笑ったミヤザキの隣には、赤いワンピースを着た女がいた。露出の多い服にハイヒール、長い黒髪。明らかに立ちんぼである。
オカダさんは「おいおい、あんな派手なのに引っかかって……」と内心苦笑しつつも、「じゃあ、連絡するよ」とだけ言い、二人を見送った。
それから数日後、オカダさんが連絡を取ろうとしても、ミヤザキには一向に繋がらなかった。メッセージも既読にならず、電話も鳴るだけで応答がない。
嫌な予感がしたオカダさんは、ミヤザキが泊まっていると言っていたソイ6近くのゲストハウスを訪れた。
■突如、姿を消したミヤザキ

「ここにミヤザキという男が泊まっていなかったか?」
だが、スタッフたちは誰もミヤザキについて多くを語ろうとしない。そこでチップを渡すと、ようやく一人のスタッフが小声でこう語った。
「実は……何日か前に、うちのスタッフが、ミヤザキさんが”赤い服の女”と一緒に部屋に入っていくのを見たんですが、それっきり行方がわからないんです」
宿泊代は先にもらっていたものの、荷物もそのままで連絡がとれなくなり、ゲストハウスとしても困っているのだと教えてくれた。
「……それに、少し妙なことが」
ふいに、隣で話を聞いていた清掃係が口を開く。
「……なんだ?」
「実は……ミヤザキさんが泊まっていた部屋のベッドの上には赤黒いシミが残されていたんです。それもなんだか気持ち悪くて……」
結局、ミヤザキの行方も、赤い服の女がどこの誰なのかもわからなかった──。