■ゲストハウスを巡る「ある噂」

連れ出しOKのビアバーが軒を連ねるソイ6。なかには怪しい存在も……?
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「まぁ、何かのトラブルに巻き込まれて失踪しただけなのかもしれないけれど。それかフラッとまた旅に出たのかもな……」
その夜、オカダさんは屋台で飲みながらタイ人の友人と話していた。すると、友人がふとタバコに火をつけながらつぶやいた。
「実はな、それとよく似た話を、昔にも聞いたことがある」
「……どういうことだ?」
とまどうオカダさんに、彼は静かに語り出した。
「何年も前のことだ。ソイ6のゲストハウスにファラン(白人の外国人)が長期滞在していた。夜な夜な歓楽街に出かけては派手に遊び歩いていたんだが、ある夜を境に忽然(こつぜん)と姿を消したそうなんだ」
最初は旅行にでも出たのかと思われていたが、数日経っても戻らない。不審に思った清掃係が部屋を確認したところ、室内は整然としており、特に異常はなかった。
ただひとつ、ベッドの上に赤黒いシミが残っていた。それは、拭いても洗っても、どうしても落ちなかったという。
■客が失踪した部屋からは…

「しかもそれだけじゃない。それ以来、その部屋に宿泊した客が、皆決まって同じような体験を訴えるようになったんだ」
しかも、気味の悪いことに、誰もかれも、
『夜中に、鏡の中から女がこちらを見ていた』
『バスルームから、誰かがすすり泣く声が聞こえた』
などと口を揃えて証言したという。
「ゲストハウスのオーナーは、霊媒師を呼んでお祓いをしたんだが、その際にクローゼットの中から血のついた女性ものの服の一部が発見されたらしい」
「それって──」
何かを言おうとしたオカダさんを遮るように友人は続ける。
「それ以来、その部屋は”赤い部屋”と呼ばれて、開かずの間になっているそうだよ。噂では、かつてその部屋で男に殺された女の霊が、今もなお、さまよっている……という話だ」
■夜街に広まる「赤い服の女」の噂

男たちを連れ去った「赤い服の女」は人ならぬ存在だったのか……?
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「……じゃあ、もしかしたらミヤザキも?」
知人の横に立っていた赤い服の女の姿を思い浮かべながら、オカダさんが尋ねると、「さあな、あくまで噂話だよ」と言葉を濁した。ただ、友人はその一件からしばらくして、パタヤの夜の街でこんな噂がささやかれるようになったと教えてくれた。
「赤い服の女に声をかけられても、絶対について行ってはいけない。それはもう、人間じゃないから……
あの夜、ミヤザキと一緒にいた赤い服の女は、本当に人間だったのか。それとも、この世に未練を残し、行き場をなくした霊だったのか──。オカダさんは今もパタヤに行くたびに赤い服を着た立ちんぼを見かけると、今もまだ行方がわからないミヤザキのことを思い出すという……。