Netflixシリーズ『39歳』第6話の会食シーンは、政治家や企業家の密談の場ではなかったが、期せずして好ましくないメンバーで食事することになったミジョ(ソン・イェジン)やソウォン(アン・ソヒ)は、刺身にはあまり手を付けない。しかも、この席には場を和ませる酒が出ていない。

 冒頭の「またか……」は韓国のドラマや映画に出てくる刺身が、会食のホストの権力や財力の象徴としてのみ存在し、美味しく食べてもらえないことに対するため息である。貴重な命がさばかれ、きれいに盛られても、じっくり味わってもらえないことを不憫に思うのだ。

 料理は豪華で盛り付けも美しい。店のインテリアも高級。しかし、会食している4人は誰も楽しんでいない。それだけに刺身がよけいに哀れなのだ。

■気まずい会食のあとは、ソジュの出番

 気まずい会食に耐えられなくなったソウォンが席を立つ。それを追うミジョ。ソウォンをなぐさめるため、食べた気がしないから何か食べに行こうと誘う。

「ソジュ飲めば大丈夫よ」

「ビールでも?」

「もちろん!」

 ゲン直しの席にふさわしいのは、やはりソジュやソメク(焼酎+ビール)だ。気まずい会食の主犯を肴に、彼女たちが豪快にグラスを乾す姿が想像できる。

3月10日の夜、大統領選挙の結果を受け、李在明の支持基盤である
全羅南道で大量に消費されそうなイプセジュ

 我が国の新たなリーダーが決まった今日まで、無数に行われたであろう密談の場で、多くの刺身が犠牲になったかと思うと、暗澹たる気分である。