■2001年~2002年、IMF危機後に東大門市場で感じた変化

 日本の出版関係者(現在の事務所代表)と縁のあった私は、1998年の秋、日本で出版される韓国関連書籍のリサーチを手伝ったことをきっかけに、韓国文化を日本に伝える仕事を始めた。

 ワールドカップ日韓共催や冬ソナブームの前だったが、2001年から2002年、訪韓日本人は増加の一途を辿っていたため、ソウルのグルメやショッピングの本をよく作っていた。

 東大門市場で服やアクセサリーの掘り出し物を紹介する取材で、DOOTAやミリオレのブースを継続的に回っていると、ある変化に気づいた。ブースのオーナーは30~40代の女性が多かったのだが、その傍らでどこか居心地悪そうに働く男性の姿を見かけるようになったのである。

 助手にしては態度がぶっきらぼうだ。私はピンときた。旦那さんだ。顔見知りの女性オーナーに聞くと、やはりIMF危機の影響で事業を続けられなくなったり、勤め先を整理解雇になったりした男性が、妻の仕事を手伝うようになったのである。食べていくためとはいえ、今と比べると男尊女卑の気風がずっと強かった時代、奥さんの下で働く旦那さんはさぞ辛かったろう。

 夫婦で切り盛りする飲食店が増えたのもこのころだったと記憶している。見栄えのする事業を始めるまでのつなぎ(当座の資金稼ぎ)ではなく、私が取材に行くと、ビジネスとして前向きに飲食業に取り組もうとしていることを熱く語る人と出会えるようになった時期だ。

 今をときめくカフェレストラン、在来市場を蘇らせる個性的な食堂、モッパン(グルメ番組)を彩る華麗なビジネスモデルは、IMF危機で泥を噛んだ人たちが盛った土の上に咲いた花だと思う。

 IMF危機とはどういうものだったのか? それを何よりもわかりやすく、あけすけに表現したドラマ『二十五、二十一』。そして、ドラマ『未成年裁判』のキム・ヘスと『地獄が呼んでいる』のユ・アインらが出演する映画『国家が破産する日』(2019年)は、おしゃれな韓国しか知らない人たちにも観てほしい作品だ。