映画と比べると韓国ドラマは積極的に観るほうではない私が、『私たちのブルース』に惹きつけられたのはなぜか? 1話から8話まで観直してみて、その理由がわかった。このドラマが肉体労働の美しさ、尊さを描いているからだ。
■魚市場の風景
第1話。夜明け前、ヨンジュアッパ(チェ・ヨンジュン)が氷を載せたリアカーを押して魚市場を走る。朝日が差し始め、競りが始まる。係員のホイッスルと売り買いの声が交錯し、しなやかな太刀魚や豊満なサバが落札されていく。
氷と魚を入れた発泡スチロールの箱が店に運ばれる。太刀魚を一尾一尾ていねいに売場に並べるウニ(イ・ジョンウン)。口開けどきに無粋に値切ってくるアジュマを一喝しながらも、なんとか折り合いをつけようとする。
場面がソウルの地下鉄駅入口に変わる。
「SS銀行です。なんでもご相談ください」
190センチ近い長身を折り曲げ、猫なで声でチラシを配る支店長ハンス(チャ・スンウォン)。
さらに場面が変わってスンデ(腸詰)工場。ヒョンアッパ(パク・ジファン)が豚の内臓や血をペースト状にしたものをセルロースに詰めている。人でも殺めたように返り血を浴びているが、ものともしない。
零下の製氷室では薄着のヨンジュアッパがチェーンソーで氷を切っている。
みな生き生きと働いているが、ハンスだけ生気が感じられない。
済州支店の支店長になったハンスが妹夫婦の農場にあいさつに行く。長男の犠牲になっている妹は兄に冷たい。機嫌をとるためにハンスは牧草運びを手伝うが、心がこもっていない。牧草の上に置いた手土産の紙袋と金色の風呂敷包みが空々しい。