「彼」は得体の知れない登場人物だった。
特に、序盤は何も話さず焼酎ばかり飲んでいた。
名前もよくわからない。「ク」という姓しか知られていないのだ。フルネームが当たり前の韓国で姓しかわからないというのは、得体の知れない人物の典型だ。
それが、ソン・ソックが演じている謎めいた男だった。
彼を異端児にすることで、ある一家の人間関係があぶりだされてくる。その一家が住むのは、京畿道(キョンギド)の水原(スウォン)に近い農村地帯だ。そこが『私の解放日誌』の舞台となっている。
晴れやかな空気の下で爽快に展開される話ではない。むしろ、逆だ。熱帯夜の湿気の中で暗くて重いストーリーが続く。
序盤の流れは『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』に似ている。あのドラマも第4話くらいまでは暗い話ばかりで、見続けるには忍耐を強いられる出だしだった。今度の『私の解放日誌』も同様だが、それもそのはずだ。『私の解放日誌』は『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』を書いたパク・ヘヨン脚本家の新作なのだ。
『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』はヒューマンドラマとして近年まれにみる傑作だった。だからこそ、新作の『私の解放日誌』にも大いに期待した。果たして、今度はどんな人間ドラマが見られるのか、と。
結果は、見ている人が感じている通りだが、ここではメインで登場するヨム家の5人について述べていこう。