イ・ウォンジョンを初めて認識したのは、ソン・ガンホの初主演映画『反則王』(2000年)。ぐうたらな銀行員デホ(ソン・ガンホ)が上司のパワハラに対抗するためにプロレス道場に通う話だが、そこで先輩レスラー五台山(オデサン)を演じたのがイ・ウォンジョンだ。
五台山はデホのデビュー戦の相手を務めたが、試合中、デホのミスで大流血してしまう。試合後、平謝りのデホに、
「平気さ。観客が喜んでくれたから、やりがいがあったよ」
と答える彼はなかなか男前だった。プロレスファンなら大いに共感するセリフだろう。
次にイ・ウォンジョンが存在感を示したのが、映画『達磨よ、遊ぼう!』(2001年)だ。抗争から逃れてきたヤクザ5人組が、田舎の山寺に駆け込んだ。老僧がヤクザたちを受け入れたために修行僧たちは苦労を背負いこむ。そんな僧の一人ヒョンガクをイ・ウォンジョンが演じた。お人好しな坊さんだが、彼の体力はヤクザに対する大きな抑止力となった。
終盤、ヤクザたちとの別れの場面。ヒョンガクはヤクザから足を洗おうかと悩むナルチ(カン・ソンジン)に次のように語りかける。
「刃物は人を生かしも殺しもします。私はそれを悟るのに15年かかりました」
この言葉はヒョンガクがかつてヤクザ者だったことを匂わせている。そして、このひとことがナルチのその後を決めたように見えた。
「大味」などと書いたが、要所で人間味のある演技を見せていたイ・ウォンジョン。この積み重ねが、モスクワの渋くてあたたかい父性の演技に結実しているのだろう。
また、役柄が「知性からは遠い」などと書いたが、イ・ウォンジョン本人は、3つの大学で東洋哲学、政治外交、行政を学んだ知的好奇心旺盛な人であることを書き加えておく。
『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』では、そんな彼の演技にも注目していただきたい。
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