Netflix韓国ドラマナルコの神』を観ていて思ったことがある。この作品はハ・ジョンウ(1979年生まれ)が麻薬王を演じ、ファン・ジョンミン(1970年生まれ)が主人公イングを演じてもドラマは成立しただろうと。

 ファン・ジョンミンは若々しくてとても50代には見えない。家族のために身を粉にして働くお父さん役は、『国際市場で逢いましょう』(2015年)で経験済みだ。

 ハ・ジョンウも『チェイサー』や『お嬢さん』などで屈折した悪役経験は豊富である。今回はハ・ジョンウの演技が光る映画を紹介しよう。

■日本の新潟で撮影された韓国映画ノーボーイズ,ノークライ

『ノーボーイズ,ノークライ』(2009年/キム・ヨンナム監督)は、日本の新潟で撮影された韓国映画。流ちょうな韓国語をしゃべる妻夫木聡(1980年生まれ)と茶髪ヒゲ面のハ・ジョンウのコンビをたっぷり観ることのできる貴重な作品である。

 ショッピングセンターの中庭で行われたカラオケ大会に、妻夫木聡とハ・ジョンウが飛び入り参加し、PUFFYの「アジアの純真」を歌うシーンは大変シュールだった。

 ♪し~ろ~のぱんだ~を どれでも じぇんぶならべ~て~ 

「全部」を「ぜんぶ」と発音するのが苦手な(韓国人はたいていそう)ハ・ジョンウが大変チャーミングである。前半にはキャバクラで浜崎あゆみの「M」を歌うシーンもあり、こちらも聴きものだ。

 日本留学時代に筆者を可愛がってくださった劇団四季の俳優(当時)小林アトム(ライオンキングの初代ぷんばぁ役。故人)さんが、チョイ役で出ていることもあり、個人的にも忘れられない作品だ。

■中国の朝鮮族の孤独を演じた『哀しき獣

『哀しき獣』(2010年/ナ・ホンジン監督)では、中国吉林省延辺の朝鮮族を演じているハ・ジョンウ。

 借金返済のために韓国で殺人を請け負ったが失敗し、冤罪をかぶったまま逃亡生活する話。季節は真冬。なんとかして故郷に帰ろうとする男の孤独と苦悩、生存本能を鮮烈に示した作品だ。

 なかでも、生き残るためにハ・ジョンウがあらゆるものを「むさぼり喰う」演技は、食べるシーンに名場面の多い韓国映画のなかでも屈指である。

ハ・ジョンウが扮した朝鮮族のタクシー運転手は、吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉市出身という設定だった。写真は延吉市の市場