■ぺ・ヨンジュンが泊った全羅南道海南モーテル

 2回目は2007年。全羅南道(チョルラナムド)の海南(ナム)でのこと。日本の人にはラブホテルにしか見えない外観の、韓国ではモーテルと呼ばれる宿泊施設だった。ここに泊ったのは映画『スキャンダル』(2003年)の主役ペ・ヨンジュンだ。

 我が国ではモーテルはカップルだけでなく、家族連れや地方出張サラリーマンもよく利用するので、けっしていかがわしいところではない。だとしても、当時すでにドラマ『冬のソナタ』で国際的スターになっていた彼が泊るようなところにはとても思えなかった。

チョン・ドヨンと共演した時代劇映画『スキャンダル』の撮影時、ペ・ヨンジュンが泊った『サファイヤ・モーテル』の一室。地方のモーテルは都市部と比べ部屋が広いのだが、ここは特に広かった。安宿とはいえスタッフがヨン様に最大の敬意を払ったことがうかがえる
『サファイヤ・モーテル』の外観

 イ・ヨンエにしてもペ・ヨンジュンにしても、地方でこのクラスの宿に泊まることはやむをえないことだったと想像する。韓国人の国内旅行が盛んになった今でこそ、田舎町でもクルマで30分も行けば1泊1万円以上のホテルらしいホテルがあるが、2000年代初頭はそうではなかったのだ。

 有名女優が実名で登場する映画『女優たち』(2009年)でも、ベテラン女優ユン・ヨジョンが後輩のイ・ミスクチェ・ジウに「昔は地方の安宿に何日も泊って撮影したものよ」と話す場面があった。

 2000年代初頭にスターたちが泊った安宿で過してみると、その日の撮影を終えたスタッフや俳優が田舎の食堂で酒盛りをするような姿まで想像してしまう。その後の世界的な韓流など誰も想像できなかった時期だ。今よりは労働環境も過酷だったのだろうが、それはそれでいい時代だったのではないかと思ってしまう。

『エージェントなお仕事』で美貌のマネージャーとイケメンがじゃれ合う高級ホテルの一室の場面を見て、時の流れを感じた。

 このドラマは毎回、俳優が実名で登場するのが楽しみだ。6話ではキム・スロ(『ドラゴン桜』『紳士の品格』)がベテラン俳優として出てきたので驚いた。1999年の映画『反則王』で若きプロレスラーに扮し、ソン・ガンホと死闘を繰り広げた印象が鮮烈だったからだ。そんな彼が50歳になろうとしているとは、重ねて時の流れを感じてしまう。