しかし、私がもっとも感情移入したのは、マ・テオ理事のライバルであり、ク・ヘジュンの初恋の相手だったチョン・チーム長(クァク・ソニョン)だ。仕事はできるが生来の気の強さからトラブルメーカーでもある。好きな男(ノ・サンヒョン)の前では可愛くふるまうも、要所要所で地が出てしまいチャンスを逃す。こんな描写が身につまされた人も多かったのではないだろうか。

 クァク・ソニョンは1983年5月11日生まれ。ミュージカル舞台出身で、日本からも観劇ツアーが組まれた人気ミュージカル『洗濯』にも出演していた。その後、ドラマに進出し、パク・ボゴム主演ドラマ『ボーイフレンド』ではソン・ヒギョ演じるヒロインの秘書役、大ヒットドラマ『賢い医師生活』では“99ズ”のイクジュン(チョ・ジョンソク)の妹でジュンワン(チョン・ギョンホ)と交際する陸軍少佐イ・イクスンを演じて注目を集めた。

 本作の制作者もチョン・チーム長には思い入れが強かったのか、劇中では、彼女が全羅南道海南(ヘナム)出身で、どんな家でどんな親に育てられたかまで丁寧に描かれていた。海南は全羅道の南端にあり、朝鮮半島最南端(タンクッ)の村として知られている。チョン・チーム長の向こうっ気の強さと、はるばる南の地からソウルドリームを夢見て上京してきた多くの先人たちのハングリー精神が重なる。

チョン・チーム長の設定上の出身地、全羅南道・海南。タンクッ(地の果て)観光地
全羅南道の海南。タンクッ観光地の展望台

 ちなみに、クァク・ソニョン自身も全羅道の出身だが、全羅南道ではなく全羅北道高敞(コチャングン)郡の生まれ。高敞はキム・ゴウンがヒロインを演じた映画『サンセット・イン・マイ・ホームタウン』やホン・サンス監督の映画『3人のアンヌ』が撮影された辺山半島の南に位置している。この地はウナギ焼きとポップンジャ(キイチゴの一種)が有名だ。

『エージェントなお仕事』では、事実上の主役を張ったように見えるクァク・ソニョン。まだ映画出演のない彼女だが、あの存在感がスクリーンでも映えるのかどうか早く観てみたい。

 ちなみに、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のウ・ヨンウの同僚、チェ・スヨン(ハ・ユンギョン)も全羅道の出身という設定だった。新人のスヨンもキャリアを重ねていくと、チョン・チーム長のような男勝りな管理職になるのかもしれない。

チョン・チーム長を演じたクァク・ソニョンの出身地、全羅北道・高敞の市場
全羅北道・高敞の名物、ポップンジャ(手前左)の酒とウナギ焼き