我が子を次の王にしたいと願う母たちの並々ならぬ教育戦争やら、後宮の権力争いの凄まじさにギョッとしながらも夢中になった『シュルプ』。そういえば、日本のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も、我が子を次の鎌倉殿にしたい母たちが目をギラつかせていたが、母親がエスカレートしていくのは、万国共通なのだろうか。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               

『シュルプ』でキム・ヘスクが演じた大妃(テビ)は、息子である王(チェ・ウォニョン)の異母兄である、先の世子(セジャ)の死への関与の疑惑がもたれていた。実は、朝鮮王朝時代、実際に我が子を王にするため、先王を毒殺したと噂される母がいる。ドラマ『オクニョ 運命の女(ひと)』では大妃として、権力の頂点に君臨していた文定王后(ムンジョンワンフ)ユン氏だ。

『シュルプ』画像出典:tvN

■文定王后はどんな人物?「我が子を王に」と望んだあげく……

 文定王后は、『宮廷女官 チャングムの誓い』などで知られる第11代王・中宗(チュンジョン)の3番目の王妃で、第13代王・明宗(ミョンジョン)の実母である。2番目の王妃の死にともない、16歳で王妃になった文定王后は、前妻の子である世子(のちの第12代王・仁宗/インジョン)を一生懸命お世話していたようだ。何かが起きれば容赦無く排除されるこの時代。中宗の寵愛が別の人にあったこと、男児を産んでなかったことなどもあり、世子の母としてふるまうことで、その地位を守ろうとしていたといわれている。

 だが、齢33にして、待望の男児(慶源大君/キョンウォンテグン、のちの明宗)を産むと一転、世子をあからさまに敵視するように。なぜなら、世子はすでに19歳。妻も側室もいる。普通に考えれば、慶源が王になる可能性はかなり低い。「是が非でも、我が子を王にしたい」文定王后の戦い、いや暴走が始まる。

 あくまで野史だが、とにかく文定王后の世子攻撃はひどいものだった。今でいう毒親だろう。聞くに耐えないような暴言を吐き、彼を病気にさせた。巫堂(ムーダン)を使って呪ったこともあったようだ。

 放火事件も起こしている。ある日、世子と世子嬪(セジャビン)が眠る東宮殿(世子の館)に火の手があがる。ネズミ数匹の尻尾に火をつけて東宮に放たれたらしい。文定王后の関与を察した世子は、母の望みに答えるのが子の務めと、静かに座って焼け死ぬつもりでその場に留まったが、外から必死に彼を呼ぶ父・中宗の叫び声が聞こえ、思い直して脱出した。この事件は世子が一切の口を閉ざすことでうやむやになったそうだが、何度も命の危険をかいくぐり、世子は第12代王・仁宗となった。