■全羅道はなぜ“芸郷”と呼ばれるのか?

 全羅道はパンソリをはじめとする音楽、書画、陶芸などが多様に発達した地で、“芸郷”と呼ばれている。

全州光州など全羅道では、料亭などにパンソリの演者を呼ぶことができる

 全州出身で元・延世大学新聞放送学科のチェ・チョンホ教授は、全羅道人のメンタリティを「野の精神」、つまり、田畑を耕す人々の心、支配する人ではなく支配を受ける人、雇う人ではなく雇われる人、奪う人ではなく奪われる人の心だと主張し、論文『南道文化の特質と優秀性』に次のように書いている。

「野の精神は、上で治める者のための経学(儒教研究)よりも、下で支配を受ける民衆の苦しみをなだめるための風流が大きく発展した。この地域が農楽、パンソリ、風刺文学等の風流と芸術の発祥の地となったのは、野の精神にもとづく生きざまが民衆の中に根付いていたからだ」

 芸術や風流というのは、そもそも現実社会と距離を置いたところで生まれるものだ。だからこそ、中央の権力から遠く離れていたこの地がパンソリ、農楽、近代時調、詩文学など芸術と風流のゆりかごになったのかもしれない。

 現実社会と距離を置いていたというのは、この地が新羅時代、高麗時代、朝鮮王朝時代を通じて政治的に不遇だったこととも関係がありそうだ。

 なお、チェ・チョンホ教授の言う「上で治める者」というのが、歴史的に常にメインストリームだった慶尚道人を指していることは明らかだ。

映画『風の丘を越えて 西便制』が撮影された全羅南道の青山島。また、この島はハン・ヒョジュ、ソ・ドヨン主演ドラマ『春のワルツ』の撮影地でもある

*参考になる映画『風の丘を越えて 西便制』(1993年)

 パンソリの名手である養父(キム・ミョンゴン)とともに旅芸人として放浪生活を送る姉ソンファ(オ・ジョンヘ)と弟トンホ(キム・ギュチョル)。やがてトンホは父に反発して逃げてしまうが、いつしか二人のことが懐かしくなり、ソンファに会いに行く。

●全羅道出身の有名人 ※()内は肩書と出身地

全羅北道】ホ・ジノ(映画監督、全州)、ユン・ソナ(俳優、全州)、チャン・ジニョン(俳優、全州)、イ・ウンジュ(俳優、群山)、キム・スミ(俳優、群山)、パク・クンヒョン(俳優、井邑)、キム・ミョンゴン(俳優、全州)、チン・ヒギョン(俳優、益山)、パク・ソルミ(俳優、益山)、ジン・ヒギョン(俳優、益山)、イ・ムンシク(俳優、淳昌)、ソン・テグァン(歌手、井邑)、イ・ミヌ(歌手、全州)、イ・キョンシル(コメディアン、群山)、イム・ヒョンシク(俳優、淳昌)、ソ・チョンジュ(詩人、高敞)、クァク・ソニョン(俳優、高敞)、テヨン少女時代(歌手、全州)、パク・ミョンス(コメディアン、群山)

【全羅南道】キム・デジュン(15代大統領、荷衣島)、キム・ジハ(詩人、木浦)、イム・グォンテク(映画監督、長城)、キム・ミンギ(作曲家、裡里)、ソン・ドンヨル(元野球選手、光州)、イ・ボヒ(俳優、莞島)、オ・ジョンヘ(俳優、木浦)、ムン・グニョン(俳優、光州)、ハン・ジヘ(俳優、光州)、チョン・ボソク(俳優、羅州)、ピョン・ヒボン(俳優、長城)、ナムジン(俳優、木浦)、イ・ナンヨン(歌手、木浦)、キム・イル(プロレスラー大木金太郎、高興)、ユンホ東方神起(歌手、光州) パク・シネ(俳優、光州)、J-HOPEBTS(アーチスト、光州)、ペ・スジ(俳優、光州)、ドンヘ/SUPER JUNIOR(歌手、木浦)、パク・チョルミン(俳優、光州)、チョン・ソギョン(俳優、羅州)、ハン・ヘジン(俳優、潭陽)、カイEXO(歌手、順天)