民のための政治に心を砕き、文学や学問の推進を進め、朝鮮王朝のルネッサンス期を作ったといわれる聖君、第22代・正祖(チョンジョ)こと、イ・サンは、これまでにも多くの作品で描かれてきた人気の王だ。
幼いころ、王世孫(ワンセソン)時代から政敵から命を狙われていたために夜もろくに眠らずに読書をしていたこと、その結果、臣下に講義するほど学問にたけた学者肌の優秀な人物として知られる真面目な人物。
一方で、ドラマ『イ・サン』ではハン・ジミン演じるソンヨン、『赤い袖先』では、イ・セヨン演じるドギムという名で描かれたモデルとする側室・宜嬪(ウィビン)ソン氏とのロマンスは多くのドラマファンをときめかせてきた。実は、この愛も史実に基づいている、実はイ・サンは側室へのあふれる想いを、文章に残していたのだ。
■愛した側室への長文追悼文「御製宜嬪墓表」と「御製宜嬪墓表誌銘」
墓石に生前の活躍などを記す碑文。朝鮮王朝において、配偶者のために碑石に文章を書いて残すことは一般的ではなく、まして女性のための碑文の場合は、母親に対して、もしくは一族の女性全員をまとめて記されるものがほとんどだ。
それは王室でも同様で、朝鮮王朝18代王・顯宗(ヒョンジョン)の娘である明安公主(ミョナンコンジュ)、21代・英祖の娘の和純翁主(ファスンオウジュ)碑文が残るぐらい。そんななか、イ・サンは、側室である宜嬪への想いを2つの文に記している。それはもう異例中の異例と考えていいだろう。
「御製宜嬪墓表」つまり墓碑に刻んだ文章は、おおよそ漢字680字ほど。もうひとつの文、「御製宜嬪墓表誌銘」は約2000字にもわたる。イ・サンの長男で残念ながら5歳で亡くなった文孝(ムニョン)世子の生母である宜嬪がいかに優秀で、自身や王室に尽くしてきた素晴らしい嬪(ビン)だったか、王妃にすべてを託して一歩下がって慎ましく暮らした姿を書き記し、字が美しく、編み物や料理が上手だったこと、節度をもって生きた人だということ、どれだけ徳を積んでいった女性なのか、自身にとって大切な人だったか、宜嬪に対するイ・サンの切ない心がほとばしる文面だ。公開ラブレターともいえるものだろう。
そんななかでも有名な部分が、王の求愛を宜嬪が2度、拒絶したことを記しているしている部分だ。