一方、権力の番人とでもいうべき役を演じたチ・ジニは、彼にべったり貼りついるベビーフェイスを脱ぎ去ることができなかったように思う。なんというか、目が優し過ぎるのである。映画『ザ・キング』で権力の番人を演じたチョン・ウソンと比べると、もうひとつリアリティが感じられなかった。
やはりチ・ジニには誠実な役柄が似合うと思う。2006年、ソウルの永登浦市場にある刺身屋に入ったとき、店の主人から、俳優のチ・ジニが常連だと聞いたことがある。永登浦の工業高校→専門大学(短大)で視覚デザインを学び、広告カメラマンから俳優に転じた彼は見かけによらぬ苦労人で、とても気さくな青年だそうだ。
■苦悩が似合う女優ファン・ジョンミン
逆にしっかり自分の仕事をしていたのが、軍部隊で深刻な事件を起こした兵士の母を演じたファン・ジョンミンだ。同名の有名男優しか思い浮かばないかもしれないが、映画『怪しい彼女』やドラマ『離婚弁護士シン・ソンハン』で姑に徹底的にいじめられる嫁を演じたぽっちゃりした女優と聞けばピンと来るだろう。最近は彼女の眉間にしわを寄せた顔を見るだけで胃が痛くなってくる。今回は苦悩レベルが段違いだったにもかかわらず、みごとに演じ切っていた。
彼女が「憑依型」の俳優なのか「技術型」の俳優なのかわからないが、もし憑依型で、こんな役ばかり演じているとしたら、実生活に悪影響がないかどうか心配になってしまう。しかし、ネットで検索したら、彼女の明るい笑顔がたくさん見られたのでホッとした。