イ・ソム主演の映画『小公女』(2017年制作/2018年韓国公開)を観た。釜山国際映画祭などでも高い評価を受けた作品で、日本ではPrime VideoU-NEXTなどで配信されている。

 イ・ソムは1990年生まれで、Netflix配信映画『キル・ボクスン』(2023年)で主人公(チョン・ドヨン)と敵対する悪役や、『この恋は初めてだから~Because This is My First Life』(2017年)のヒロインの友達役など、映画やドラマで活躍しているモデル出身の個性派女優だ。

 家賃や物価の高騰で借りていた部屋を出て行かなければならなくなったアラサーの家政婦ミソ(イ・ソム)が、新たに部屋を借りるまでの仮住まいとして、大学時代のバンド仲間の家を泊まり歩くというストーリー。

 物語のベースは、アカデミー賞受賞作『パラサイト 半地下の家族』同様、「貧困」なのだが、突然訪ねて来て「泊めてほしい」と言う者に対し、友人知人がどういう反応をするかが見ものである。そこには韓国の社会問題や韓国独自の人間関係の機微が見え隠れする。

 ネタバレになるので詳しくは書かないが、この映画はそうした事象を韓国の名バイプレイヤーたちが巧みに演じている。そのいくつかを紹介しよう。

『小公女』の序盤、ミソ(イ・ソム)が交通費節約のため、漢江にかかる東湖大橋を歩いて渡るシーンがあった。写真は秋や春、筆者が散歩がてら歩いて渡っている広津橋(漢江東部)からの風景

■イム・ソム主演映画『小公女』の個性派&名バイプレイヤーたち

アン・ジェホン(ミソの彼氏)

 主人公ミソ(イ・ソム)は衣食住の住は断捨離したが、「タバコ」「高級ウイスキー」とともに人生に欠かせないものとして「恋人」を挙げている。その彼氏を演じたのがアン・ジェホンだ。やさしさと誠実さだけが取り柄の彼氏がミソを守り切れるかどうかが見ものである。

 アン・ジェホンは『サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~』(2017年)、『恋愛体質~30歳になれば大丈夫』(2019年)など、ドラマでもおなじみの人気個性派俳優。最近ではNetflix配信『マスクガール』の「前世はウォンビン」チュ・オナム役で話題を集めた。本作主演のイ・ソムとは、新作ドラマ『LTNS(原題)』で再共演することも発表されている。

 ホン・サンス監督の映画『夜の浜辺でひとり』(2017年)や『草の葉』(2018年)にも出ているので探してみてほしい。

キム・グッキ(ミソの大学時代のバンド仲間のキーボード担当)

 自身の暮らしがラクではないにもかかわらず、ミソを家に泊めてやる心優しい主婦を演じたのはキム・グッキ。最近ではドラマ『エージェントなお仕事』で、イ・ソジン演じるマネージメント事務所理事を恋慕する社員役が印象的だった。

 映画では、キム・ユンソク主演『1987、ある闘いの真実』(2017年)、キム・ゴウンチョン・ヘイン主演『ユ・ヨルの音楽アルバム』(2019年)、チョン・ユミコン・ユ共演『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年)、ソン・ガンホイ・ビョンホン主演『非常宣言』などに出演している。

 老け役が多いが、1985年生まれで、じつはまだ30代後半。ソル・ギョングファン・ジョンミンチョ・スンウイ・ジョンウンらを輩出したロックミュージカル『地下鉄一号線』出身だけに、今後も注目の女優である。

イ・ソンウク(ミソの大学時代のバンド仲間のキーボード担当)

 離婚の傷が癒えない男を演じた。リビングと寝室を隔てるドア越しにミソと涙ながらに話すシーンには胸が詰まった。最近ではパク・ウンビン主演『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(2022年)で法律事務所ハンバダのクライアント役を演じている。映画『サムジンカンパニー1995』(2020年)ではイ・ソムやコ・アソンの上長に扮した。