《サスペンスBEST1》『ミッキ]』

 今年のサスペンスは、派手な注目作ではないけれど一度観たら抜け出せない作品が多かった。意外なところでは、『バラマンション』『ハピネスバトル』も緻密でとても面白かった。脚本がうまいのだと思う。ストーリーの展開、1話ごと終わり方にも唸らされた。

 ショッキングさがポイントになったサスペンスとしては『マスクガール』、そして11月に入って配信された『運の悪い日』が傑出していた。

『マスクガール』は、結局、元の物語から離れ最後は遠くに行き過ぎてしまった気もするが、これまでの韓国ドラマにはない強烈な作品であったことは間違いない。

『運の悪い日』も強烈さは負けず劣らずで、特に前半の連続殺人犯とタクシー運転手がタクシーで長距離移動するくだりは、驚きの展開の連続。手に汗が止まらなかった。

 そんな中で今年最も素晴らしいサスペンスに挙げたいのは『餌[ミッキ]』。振り返ってみれば、いくつかの過去と現在を行き来しながら進む展開は今年の韓国ドラマの流行りだったのかも……とも思うが、なかでも本作は巧妙だった。連続殺人事件と詐欺事件の裏にある人間ドラマにくぎ付けになった。

 そのほか、マニアックなところでは、『こうなった以上、青瓦台に行く』、『砂漠の王』、また、学校のイジメの傷跡を鋭く描いた作品としては、『ザ・グローリー 〜輝かしき復讐』よりもヨン・サンホ監督のアニメ映画を原作にした『豚の王』が見応えがあった。

●作品情報

『餌[ミッキ]』

[2023/全12話]演出:キム・ホンソン 脚本:キム・ジヌ

出演:チャン・グンソクホ・ソンテイ・エリヤイ・ソンウクパク・ミョンフン

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《ヒューマンBEST1》『今日は少し辛いかもしれない

 ヒューマンも、意外に良作が多かった。純粋なヒューマンではないが、これまでの韓ドラにはなかったアラフィフの主婦を主人公にした『医師チャ・ジョンスク』は大きな人気を博したし、学園ドラマ『弱いヒーロー Class1』も業界人の間で注目を集めた。

 後半に入って急浮上したのが、『今日もあなたに太陽を ~精神科ナースのダイアリー~』だ。心を病んだ人々の深層心理の描き方が、ファンタジックなのに芯をついていて胸に迫る。韓国の社会問題にもさりげなく切り込んでいたが、厳しい描写のあとのユーモアも効いていた。

 だが、何といっても今年一番感動したヒューマンドラマといえば、『今日は少し辛いかもしれない』だろう。

 大腸がんによってだんだんものが食べられなくなっていく妻と、彼女のために料理に腕を振るう夫の物語。モッパンドラマなのに、作った料理を食べない(食べられない)ときがある作品は初めてかもしれない。悲しみだけではない死に至るまでの生き様、ハン・ソッキュの名演(『浪漫ドクター キム・サブ3』だけじゃない!)。ここでは語り切れないが、今年最も泣いたドラマである。

 死の影を感じる作品としては、今年ようやく日本初配信された2021年の作品『人間失格』も秀作。2人の男女を中心に、さまざまな愛、家族の形を描いた群像劇的な作品で、ひとり一人の心情にスポットを当て人生を考えさせる、こちらもおすすめの一作だ(驚くほどかっこいいリュ・ジュンヨルも見どころ!)。

●作品情報

『今日は少し辛いかもしれない』

[2022年/全12話]原作:カン・チャンレ 演出・脚本:イ・ホジェ

出演:ハン・ソッキュ、キム・ソヒョン、チン・ホウン