新年を迎えると、決まりきった行事のように「今年の韓国ドラマは全体的にどんな傾向になるだろうか」と予測するのが楽しみだ。結局は「予測がはずれる」というのが恒例になるのだが、そのほうがむしろ歓迎すべき傾向かもしれない。予測ができないほど想定外のラインナップで韓国ドラマ界が賑やかになるからだ。

 昨年2023年で言えば、特に後半は圧倒的な熱量で、ディズニープラス スターで配信された『ムービング』が業界を席巻していた。

■世界的大ヒット作『ムービング』大人パートのヒロイン、ハン・ヒョジュの魅力考察

 実際、「超能力者が主人公となるアクションヒーローもの」という先入観で視聴をためらっていると、絶好の機会を失うというタイミングの悪さを実感する羽目になる。何よりもこのドラマはジャンルをすっきりと分けられるほどテーマが単一ではなく、描かれているストーリーの多様性は、常に視聴者自身が物語の理解力を試される局面を生んでいる。

 個人的に言えば、時間軸が過去と現在を行ったり来たりする展開は苦手である。可能ならば、時間の流れに沿ってプロットの一つひとつが積み重なっていく展開のほうが楽なのだ。しかし、『ムービング』はそういう類のドラマではない。過去の伏線が現代に重い意味を伴って甦る形式のドラマであり、伏線の数々が『ムービング』の面白さを際立たせる核心部分になっている。つまりこういうことだろう……練りに練ったストーリーを堪能するためには常に緊張感を持ってドラマに没入する必要があり、ながら族が気軽に向き合うには『ムービング』の奥行きが深すぎる、と。

 もっと言えば、ドラマに向き合う真剣度に応じて面白さを発見できるドラマが『ムービング』というわけだ。いい意味で、見る人の覚悟を問われるドラマだと言えるかもしれない。

 登場人物は、1990年代に国家安全企画部(諜報機関)のエリートとしてスパイ活動に従事した超能力者たちが第一世代であり、遺伝的にその能力を受け継いだ子供たちが第二世代となっている。

 ドラマは三部構成で、第一部は第二世代の初恋や思春期の葛藤を取り上げた学園青春ドラマがメインであり、刺客に襲われる第一世代の現状が随時はさみこまれている。

 第二部ではスパイ活動をせざるをえなかった超能力者たちの人生がクローズアップされて、第三部では第一世代と第二世代が協力して本当の敵と闘う、という壮絶な展開に向かっていく。このあたりの凄まじいスケール感にはただ圧倒される。

 しかも、第一世代を演じているキャスティングが超豪華だった。ハン・ヒョジュリュ・スンリョンチョ・インソンといった大スターたちの存在感に、感情を大いに揺さぶられた。

 とりわけ、ちょっと驚いたのは「ついにハン・ヒョジュも男子高校生の母親を演じるようになったか」ということだ。

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