■鉄道の旅や駅が印象的な韓国映画は?

 映画で忘れられないのが1985年の『神様こんにちは』だ。ソウルから南下する夜行列車はフォークギターを弾きながら歌う若者たちで和やか。障害を持つ主人公ビョンテ(アン・ソンギ)と放浪詩人ミヌ(チョン・ムソン)は、対面座席の向かいに座った身重のチュンジャ(キム・ボヨン)に茹で卵とサイダーをもらって仲良くなる。

 我らがソン・ガンホがスターになるきっかけをつかんだ映画『グリーン・フィッシュ』(1997年)もよかった。ヤクザの情夫(シム・ヘジン)と、そのヤクザの子分(ハン・ソッキュ)。90年代を代表する二人のスターが夜汽車で並んで座り、ぎこちなく唇を合わせた。

 1970年代後半の高校が舞台の映画『マルチュク青春通り』(2004年)も印象に残っている。ギターを担いだ落ちこぼれ高校生(クォン・サンウ/『天国の階段』)と留年マドンナ(ハン・ガイン/『建築学概論』)の二人が、ソウルから列車に乗って日帰りデートに行くシーンが微笑ましかった。

『彼女を信じないでください』(2004年)では、本作が映画デビューだったカン・ドンウォン扮する薬剤師が、キム・ハヌル扮する詐欺師と出会ったのがムグンファ号の車内だった。

 最近の映画では、『The Witch 魔女』で、女子高校生ジャユン(キム・ダミ/『梨泰院クラス』『その年、私たちは』)が、列車の中で茹で卵をほおばりながらサイダーを流し込むシーンが記憶に残っている。

筆者が益山からソウルに戻るときに乗ったムグンファ号

 高速鉄道KTXの開業から早や20年になる。KTXは韓国内の移動時間を大幅に短縮したが、旅情ではやはり在来鉄道のムグンファ号に軍配が上がる。

 筆者がおすすめする鉄道旅の路線は、半島南部の全羅南道慶尚南道を横断する慶全線だ。何度か途中下車すれば、全羅道と慶尚道、二つの異なる文化にふれられるので興味深い。

日本植民地時代に建てられた羅州駅の旧駅舎(全羅南道羅州市)を通過するムグンファ号
全羅南道と慶尚南道の中間辺りに位置する慶全線の河東駅
河東駅のホームで慶尚南道方面行の列車を待つ若者

 冒頭、実用本位のバスは絵にならないと書いたが、バスターミナルやバス停となると話は別だ。韓国庶民のさまざまな人生が交差する場所なので、とくに外国人には興味深く映るだろう。これについてはまた別の機会に書くことにする。