ソウルは坂の街だ。日本の坂道は、緩い傾斜の坂と急坂ともいわれる傾斜がきつい坂道が混在しているが、ソウルのそれは、急な坂道が圧倒的に多い。というか、はじめの5メートルほどは緩い坂なのだが、そこから一気に急坂になり、最後は石段になる。

 この傾斜に天を仰ぎたくなるのは飲み会の帰りである。韓国人との飲み会はけっこうきつい。だいたい3次会まである。ソジュという焼酎にはじまり、 ビールを挟んでまたソジュ。終電近い電車かタクシーで帰るのだが……。

■坂道が多いソウルの街、坂道に続く石段の途中で夜空を見あげる

 以前は温泉マークつきのモーテルに泊まることが多かった。最近、この種の宿は減少傾向なのだが、安宿派であることは昔と変わらない。

 安宿と中級以上のホテルの違い……。それは部屋の広さとか、設備によるが、ソウルの場合、地下鉄駅からの距離というか、坂の下にあるか上にあるかも値段に影響すると思っている。地下鉄の駅はだいたい坂の下にある。

 もちろん坂の上ほど安くなる。僕は安宿派だから、当然、坂の上の宿になる。そこへの道は急な坂道や石段だから、宿にタクシーが横づけすることなど望めない。車が近づくことができないのだ。

 酔いと疲れを抱えて、夜の坂道に息を切らし、石段の途中で小休止することは珍しくない。ときに石段に腰をおろし、「今日は満月か……」などとソウルの夜空を見あげることになる。

急な坂道の先にはこういう石段が現れることが多い。ひるんでしまうと宿に戻れない

 しかしこの急な坂道が惨事を引き起こすこともある。ソウル梨泰院雑踏事故である。2022年の10月29日、ハロウィンの夜、坂道に集まった人々は次々に集まってくる人々に押され、将棋倒しのように倒れ、158人が亡くなった。その後、自殺した人がひとり出て、159人が犠牲になった。もしこの道が急な坂道ではなかったらこれほどの惨事にはならなかったはずだ。